入院中ノ想ヒ出。
2003年1月30日同じ病棟でよく見かけるガキがいた。
いつもフラフラしている。
小学一年生くらいか。
退屈していたオレは、そのガキに話かけた。
「よぅ、ポケモンとか好き?」
ピカチュウくらいしか知らないのに
そんな質問するとは、
オレもよっぽど暇だったんだろう。
「ポケモン?あんまり知らねーな。」
ガキの答え。
なんだか生意気な口調のガキ。
ポケモンの話が無理だと解ると、
退屈だったオレは違う話で場を繋ぐ。
寂しがりもここまでくると哀れだな。
「オレの年齢、一発で当てたら千円やるよ。」
ガキと賭けをする。
実年齢より若く見られがちなオレは自信があった。
ただし、あんまり近づくのはナシだ。
シワでバレるからな。
すると、
「じゃぁ、オレのも当てたら100万やるよ。」
ガキが言い出す。
親が資産家なのか?などと思いながら
ガキの全身を細かく見る。
小学一年生くらいの身長。
真っ白い顔。
少し黄ばんだ白目。
紫色の唇。
変声期前のような幼い声。
生意気な喋り。
大人ぶった態度。
なにか、大きな病気で入院してる事は
理解できたが、お遊びでも100万となると
答えを出すのに、オレは慎重になった。
考えていると、
ガキが先に年齢を明かしてしまう。
「オレさ、こんな身体なんだけど、
ホントは22歳なんだよ。見えねーだろ?」
見えない。
とても成人してるとは思えない。
どこからどう見ても生意気な小学生。
信じ難いので、近くにいた看護婦に訊いてみると
どうやら本当に22歳。
オレの知ってる22歳に
こんなに幼いヤツはいない。
オレは、あからさまに驚くのも失礼かと思い、
表情を殺し平静に振舞い、
自分の年齢と名前をあかした。
ガキも、オレの年齢を知ってビックリしていた。
ガキの名前はY。
オレとYは、
自然に、ごく当たり前に友達になった。
Yは、
「マワリが爺さんばかりで、話し相手がいなかった
から、オレと話せてうれしい」という事を
さかんに口にした。
毎日のように、同じ時間に歯を磨き、
売店に買い物に行き、
ロビーでダラダラした。
点滴台を分解、下の転がる部分を
スケボー代わりにして遊んで
2人で看護婦に怒られたりもした。
廊下の壁際に2人でウンコ座りしては、
ただ、ぼーっと時間を費やしていた日もあった。
ただ、喋って一日が終わった日もあった。
看護婦には、
「いつもつるんでいるね」と言われるほどだった。
オレは、
Yがどんな病気なのか知らない。
ただ解っている事は、
福島の病院にくる前は仙台のデカイ病院にいた事。
仙台の前は京都のデカイ病院にいた事。
生ものが食べられない事。
グレープフルーツを食べるとブッ倒れるから
絶対食べない事。
成長しない事。
手術の繰り返しで体中傷だらけな事。
そのくらいのものだった。
深く聞こうとは思わなかった。
いつだったか、
Yは免許をとったと嬉しそうに自慢していた。
でも、車がないと笑っていた。
「オレって、この身長だからさ、普通の車って
運転できないんだよ。シートとか改造してある
改造車じゃなきゃダメなんだ。でもオレ、
こんな身体でも障害者にはならないから、
車の改造費とか、補助にならないんだよねー。
だから、お金足りないから車ないんだ。
すぐに貯めて買うけどねー。
早く自分の車でドライブしてぇよ。」
Yは笑いながら言う。
何故か解らないが痛かった。
Yの、その前向きさがオレには痛かった。
病気の身体という運命を受け入れている
Yの姿が痛かった。
「名前当てたら100万とか言ってたんだから
車買うくらいの金なんて、すぐできるだろ。」
オレはそんな事を言って誤魔化した。
オレは、
『アナタも辛いだろうけど、
世の中には、もっと辛い人が沢山いる。』
そんな類の言葉が大嫌いだ。
辛いと感じる感覚は人それぞれだろうし、
辛いと感じる不幸な出来事には
大きいも小さいもないと思うから。
涙が流れようが流れまいが、
辛い事に変わりはないと思うから。
それでも、
Yの背負った運命ってのは
オレの腹の中に巣食った病魔なんかとは
比べ物にならないんだなと思った。
おそらく、これからずうっと、
Yの身長は伸びないままだろう。
声も顔も幼いままなのだろう。
そのまま過ごしていくのだ。
オレの病気など、
Yのこれからの人生に比べれば
カスみたいなもんじゃないか。
Yには失礼な話かもしれないが、
オレの方が全然幸せなんじゃないか。
幸せに感じる感覚は人それぞれだから
簡単に言える事じゃないけど、
病気で苦しむ事に
大きいも小さいもないと思うけど、
多分、オレのほうが
まだ恵まれているはずだ。
一度、Yがこんな話をした。
「オレの同部屋の爺さんにさ、
毎日くらいお見舞いにくる女がいるんだ。
爺さんのお孫さんみたいなんだけどさー、
結構カワイイんだよ。大学生なんだってよ。
オレさー、あのお孫さんタイプだなー。
ってゆーか、好きかも。」
オレは言葉を返せなかった。
いつもフラフラしている。
小学一年生くらいか。
退屈していたオレは、そのガキに話かけた。
「よぅ、ポケモンとか好き?」
ピカチュウくらいしか知らないのに
そんな質問するとは、
オレもよっぽど暇だったんだろう。
「ポケモン?あんまり知らねーな。」
ガキの答え。
なんだか生意気な口調のガキ。
ポケモンの話が無理だと解ると、
退屈だったオレは違う話で場を繋ぐ。
寂しがりもここまでくると哀れだな。
「オレの年齢、一発で当てたら千円やるよ。」
ガキと賭けをする。
実年齢より若く見られがちなオレは自信があった。
ただし、あんまり近づくのはナシだ。
シワでバレるからな。
すると、
「じゃぁ、オレのも当てたら100万やるよ。」
ガキが言い出す。
親が資産家なのか?などと思いながら
ガキの全身を細かく見る。
小学一年生くらいの身長。
真っ白い顔。
少し黄ばんだ白目。
紫色の唇。
変声期前のような幼い声。
生意気な喋り。
大人ぶった態度。
なにか、大きな病気で入院してる事は
理解できたが、お遊びでも100万となると
答えを出すのに、オレは慎重になった。
考えていると、
ガキが先に年齢を明かしてしまう。
「オレさ、こんな身体なんだけど、
ホントは22歳なんだよ。見えねーだろ?」
見えない。
とても成人してるとは思えない。
どこからどう見ても生意気な小学生。
信じ難いので、近くにいた看護婦に訊いてみると
どうやら本当に22歳。
オレの知ってる22歳に
こんなに幼いヤツはいない。
オレは、あからさまに驚くのも失礼かと思い、
表情を殺し平静に振舞い、
自分の年齢と名前をあかした。
ガキも、オレの年齢を知ってビックリしていた。
ガキの名前はY。
オレとYは、
自然に、ごく当たり前に友達になった。
Yは、
「マワリが爺さんばかりで、話し相手がいなかった
から、オレと話せてうれしい」という事を
さかんに口にした。
毎日のように、同じ時間に歯を磨き、
売店に買い物に行き、
ロビーでダラダラした。
点滴台を分解、下の転がる部分を
スケボー代わりにして遊んで
2人で看護婦に怒られたりもした。
廊下の壁際に2人でウンコ座りしては、
ただ、ぼーっと時間を費やしていた日もあった。
ただ、喋って一日が終わった日もあった。
看護婦には、
「いつもつるんでいるね」と言われるほどだった。
オレは、
Yがどんな病気なのか知らない。
ただ解っている事は、
福島の病院にくる前は仙台のデカイ病院にいた事。
仙台の前は京都のデカイ病院にいた事。
生ものが食べられない事。
グレープフルーツを食べるとブッ倒れるから
絶対食べない事。
成長しない事。
手術の繰り返しで体中傷だらけな事。
そのくらいのものだった。
深く聞こうとは思わなかった。
いつだったか、
Yは免許をとったと嬉しそうに自慢していた。
でも、車がないと笑っていた。
「オレって、この身長だからさ、普通の車って
運転できないんだよ。シートとか改造してある
改造車じゃなきゃダメなんだ。でもオレ、
こんな身体でも障害者にはならないから、
車の改造費とか、補助にならないんだよねー。
だから、お金足りないから車ないんだ。
すぐに貯めて買うけどねー。
早く自分の車でドライブしてぇよ。」
Yは笑いながら言う。
何故か解らないが痛かった。
Yの、その前向きさがオレには痛かった。
病気の身体という運命を受け入れている
Yの姿が痛かった。
「名前当てたら100万とか言ってたんだから
車買うくらいの金なんて、すぐできるだろ。」
オレはそんな事を言って誤魔化した。
オレは、
『アナタも辛いだろうけど、
世の中には、もっと辛い人が沢山いる。』
そんな類の言葉が大嫌いだ。
辛いと感じる感覚は人それぞれだろうし、
辛いと感じる不幸な出来事には
大きいも小さいもないと思うから。
涙が流れようが流れまいが、
辛い事に変わりはないと思うから。
それでも、
Yの背負った運命ってのは
オレの腹の中に巣食った病魔なんかとは
比べ物にならないんだなと思った。
おそらく、これからずうっと、
Yの身長は伸びないままだろう。
声も顔も幼いままなのだろう。
そのまま過ごしていくのだ。
オレの病気など、
Yのこれからの人生に比べれば
カスみたいなもんじゃないか。
Yには失礼な話かもしれないが、
オレの方が全然幸せなんじゃないか。
幸せに感じる感覚は人それぞれだから
簡単に言える事じゃないけど、
病気で苦しむ事に
大きいも小さいもないと思うけど、
多分、オレのほうが
まだ恵まれているはずだ。
一度、Yがこんな話をした。
「オレの同部屋の爺さんにさ、
毎日くらいお見舞いにくる女がいるんだ。
爺さんのお孫さんみたいなんだけどさー、
結構カワイイんだよ。大学生なんだってよ。
オレさー、あのお孫さんタイプだなー。
ってゆーか、好きかも。」
オレは言葉を返せなかった。
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