今日。

2003年4月22日
5年前、オレと婆ちゃんは
同じ病院の同じ病棟に入院していました。
 
 
オレは毎日、点滴ぶら下げながら
婆ちゃんの病室に顔を出し、
婆ちゃんの横で1日を過ごしていました。
 
 
前の月に、姉の結婚式で
ビールをガブ飲みしてた婆ちゃんとは
別人のような婆ちゃんがソコにはいました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
婆ちゃんは、肝臓ガンでした。
 
 
入院した頃には完全に手遅れで、
あと1週間持てばいいと言われていました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
婆ちゃんは、左の腕がだるいと言いました。
 
 
オレは、一日中婆ちゃんの左腕を擦りながら
後悔していました。
 
 
もしかして、オレが婆ちゃんに恩返しできるのは
この、婆ちゃんの腕を擦るのが最後なのかと、
オレは非常に後悔していました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
婆ちゃんとは、近くに住んでいたものの、
中学生の頃から、全然会わなくなりました。
 
 
毎週、婆ちゃんの家に顔を出しに行ってた
両親はオレに、婆ちゃんがオレの事を
すごく心配してるぞと、いつも言いました。
婆ちゃん家に顔を出せと。
婆ちゃんに元気な顔を見せてやれと。
 
婆ちゃんは、体が弱いオレの事を
いつも気にかけてくれていたようでした。
 
 
でも、オレは仲間とつるんで
遊んでる方が面白かったので、
正月に会えばイイ方でした。
 
  
なんで、
もっと婆ちゃんの家に行かなかったんだろう。
 
  
婆ちゃんの腕を擦りながら、
オレはずぅっとそんな事を考えていました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
腕を擦っていると、婆ちゃんは突然、

  
「ワタシはね、
 あんたの結婚式に出るまで死なないよ。」
 
  
と、オレに向かって言いました。
 
  
自分が、
もう長くない事を知っていたんだと思います。
知っていて、強がっていたんだと思います。
 
  
「あんたの結婚する人は
 カワイイ子なんだろうねぇ。」
 
 
婆ちゃんは、そんな事を言ってました。
 
  
オレには、当時4年間付き合っていて、
「この人と結婚するんだろうなぁ」と思っていた
彼女がいました。
 
  
彼女が、次の次の日に休みなのを知っていたので
オレは、
 
  
「んじゃ明後日に
 オレが結婚する相手を見せてあげるよ。
 すんげぇ、カワイイよ。」
 
  
なんて言って、
彼女の了解もとりました。
婆ちゃんも、嬉しそうに笑っていました。
 
オレは、彼女を見せてあげる事が、
いつもオレを心配してくれた婆ちゃんへの
恩返しなのかと思っていました。
 
 
それが、いつもオレを心配してくれた婆ちゃんを
安心させる方法だと思いました。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
次の日の朝、
オレの結婚相手を見れると安心したせいか、
婆ちゃんの心臓が止まりました。
 
   
心臓が止まっては蘇生、
止まっては蘇生を3回繰り返し、
4回目に婆ちゃんの心臓が止まった時、医者が 
「これ以上は無理」というような事を言いました。
 
  
オレは「続けろ」と言いましたが、
婆ちゃんの子供である叔父や叔母の
 
 
「ありがとうございました。」
 
  
との言葉で、
婆ちゃんの体に繋がれた、
婆ちゃんを生かす為のいろんな機械から伸びた
管が外されました。
 
  
「お婆ちゃんは動けないですが
 皆さんの声は、まだ聞こえるはずです。
 お婆ちゃんに声をかけてあげてください。」
 
  
医者がそう言って、皆がそれぞれ
婆ちゃんに声をかけ始めました。
 
  
オレは、ただ喋らないだけで、
全然昨日と変わっていない婆ちゃんが
死ぬ人とは信じられず、
婆ちゃんを怒らせれば起きるかななんて思い、
 
  
「婆ちゃん、
 なんかヒゲみたいの生えてるよ。
 剃らないと死ねないよね〜。」
 
  
なんて言ってみましたが、
婆ちゃんは怒りませんでした。
 
  
そこで、オレは
婆ちゃんは死んだんだなぁと思いました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
   
今日は、婆ちゃんの命日です。
 
  
オレは、婆ちゃんに
腕を擦るくらいしか恩返しが出来なかった事と
婆ちゃんを安心させてしまった事を
後悔しています。
 
  
毎年、この日がくると、辛くてたまりません。
 
 

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