夏草ガ流レテク。
2003年8月12日そのカップルがオレの目に映ったのは
デニーズでの事だった。
いや、正確に言えば、男、
オレの左斜め前に座るカップルの男のほうに
オレの目は釘付けになってしまったのだ。
イカツイ感じのその男は
ダボダボな服を着こんではいたが
どこかソレが馴染まず、
なんとも中途半端な印象を与えていた。
そして、彼はサングラスをかけていたのだが、
本来、紫外線から目を守るべき
彼のサングラスのレンズは
紫外線から目を守らずに
顎から下のほうを向いていた。
「ケミストリ!!」
オレは、そう心の中で叫ぶと
“2003年夏にも
サングラスを
ケミストリにしてるヤツはいるのだなぁ”
などと、妙な感心をしたり、
“オマエはスゴイ老眼か”
などと心の中でツッコんで
アイスティーをストローですすり上げながら
彼に注目していた。
そして、その後、
彼はオレにミラクルを見せてくれた。
彼のテーブルに
ハンバーグらしき物が運ばれてきた。
彼女と何かを話しながら
彼が、何気なく切り分けたハンバーグを
口に運ぼうとして顔を斜め下に向けた時。
ミラクルが始まる。
彼が口を開けて顔を斜め下に向けると、
ケミストリにしたサングラスが動いて
彼の口と、彼の口へ運ばれるべきハンバーグの
間を邪魔するのだ。
サングラスで1番重いレンズの部分は、
重力に縛られて
常に地面と平行であろうとするのだ。
レンズが動くたびに
彼の手と共にあるハンバーグは彼の口へは入らず
また、鉄板付近に降下する。
食べようとする彼。
地面に平行に動くレンズ。
食べようとする彼。
地面に平行に動くレンズ。
ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!
慣性だねっ!!
これがニュートンの運動の第1法則
慣性の法則なんだね!!
それでも、
彼はサングラスを外そうとしない。
オレが思うに、
おそらく、彼の今日のファッションのポイントは
そのサングラスであって、
女性の手前、外すワケにはいかないのではないか。
もしかすると、
彼女とはまだ始まってもいない段階で、
自分のオシャレをアピールする為には
絶対に外せないのかもしれない。
外せばイイんだよ!!
そのサングラスを外せば
おいしいハンバーグが食べれるんだよ!!
だが、
あくまでもサングラスを外さないという
彼の努力の結果、
数回目のチャレンジで
彼は見事に、ハンバーグを
口にいれる事に成功した。
その途端。
「熱ッ!!」
彼がそう言った瞬間、
ケミストリにしていたサングラスが落下。
そして、
サングラスはハンバーグの上へ。
ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!
重力だね!!
これが地球の重力なんだね、ニュートン!!
ソレを見た瞬間、
オレは途中までアイスティーを
吸い上げていた事を忘れ
ブッと噴出してしまった。
そして、
オレのアイスティーには
無数の泡が
ブクブクと泳いでいた。
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