ハングマンボウリング。

　
　
　
● ○ ○ ●
　○ ○ ○
　 ●　○
　　 ○
　
　　　　
　
　
　
この図は、ボウリングのピンの図である。
　
1投目を投げて、残ったピンの図である。
　
○が倒したピンで●が残ったピン。
　
つまりこの場合、
2番、7番、10番ピンが残った事になる。
　
はっきり言って、
このピンの残り方はかなりムズカシイ。
　
この残ったピンを倒して
スペアをとるのはムズカシイのだ。
　
　
　
　
　
それは、昨日、
ハングマン集会の
　
『ドキッ！！男だらけのボウリング大会
　　　　　　　　　　　　　　〜賞金つき〜』
　
での事だった。
　
4人中、トップはオレだったのだが、
すぐ後ろには僅かの差で
ジェット、ヒロさん、ナオさんが続いていた。
　
そんな時、オレはこの
2番、7番、10番ピンを残してしまったのだ。
　
　
　
　
　
この、2、7、10のスペアをとり、
次にストライクを出せば、
後に続く3人を大きく引き離す事ができる。
　
オレは慎重にボールを投げるポイントを考え、
軌道を読んだ。
　
　
　
　
　
まず、レーンの右端に立ち、
そこから、対角線に向かって投げる。
　
狙うは、図の前から2列目の左側にある2番ピン。
　
その2番ピンの左側面に、
ボールの右側面を当てる。
　
そうする事によって2番ピンを右に飛ばし、
右奥にある10番ピンに当てる。
　
そしてボールはそのまま左奥にある
7番ピンを倒す。
　
これでスペアはとれるのだ。
　
　
　
　
　
アプローチに入り、狙いを定める。
　
後ろでは、
ヒロさん、ナオさん、ジェットの三人が、
オレのメンタル面をついてミスさせようと
　　
「うんこボーン！！」とか
　
「あ、ゲルタ、あそこに乳丸出しの女が！！」とか
　
ゲスな事を言って騒いでいる。
　
　
　
　
　
フッ。
　
聞こえんなぁ。
　
　
　
　
　
ボウリング場に、
乳丸出しの女がいるワケないのだ。
　
だいたい、なんだ？
「うんこボーン！！」て。
　
うんこミサイルか？
　
なんだソレ？
　　
オレは、後ろのゲスな連中の声に動じず
ボールを投げた。
　
　
　
　
　
オレが投げた玉はナチュラルフック。
　
自然にカーブしながら2番ピンに近づいていく。
　
そして、2番ピンの左側面を捕らえ、
ボールはそのまま左奥の7番ピンへ。
　
そしてボールに弾き飛ばされた2番ピンは
空中を回転しながら、
右奥の10番ピンへと近づいて行く。
　
オレには、
それがゆっくりゆっくり、
まるでスローモーションに見えた。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
カコンッ
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
イェェェェェェェェェェェェェェェェェアッ！！
　
倒したぞオラァ！！
　
10番ピン倒してスペアとったぞオラァ！！
　
　
　
　
　
さすがオレ！！
　
ミスターコントロール！！
　
元広島カープの北別府なみに精密機械！！
　
　
　
　
　
そして、その後にストライクを出し、
オレは首位を独走して優勝、
賞金をガッポリいただく事になった。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
だがその後、
先輩ヒロさんとナオさんから物言いがつく。
　
　
「マイボールでやるのは卑怯だ。
　ハウスボールで勝負しろ。」
　
　
確かにそうだ。

自分専用のボールを使う
オレやジェットに比べたら　
備え付けのハウスボールでプレイする
ヒロさん、ナオさんは、あまりにも不利。
　
『弘法筆を選ばず』と言う言葉もある。
　
オレの実力なら、
ハウスボールでも勝てるハズだ。
　
それに、中国には
『鶏を裂くに、いずくんぞ
　牛刀を用いることあらんや』という言葉もある。
　
ナオさん、ヒロさんは
オレがマイボールを使う程の相手でもないのだ。
　
オレとジェットはOKした。
　
今回は、賞金ではなく、罰ゲーム。
　
罰ゲームは、
5こ程離れたレーンで投げている女の子3人組を
勝者の指示通りにナンパするというものだった。
　
そして、結果は。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
ビリ。
　
　
　
　
　
オレ、ビリ。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
油断か。
　
奢りか。
　
オレはハウスボールに馴染めず
スコア100もいかずビリになってしまった。
　
　
　
　
　
「さぁ、ゲルタくん、
　ナンパしてきてもらいましょうか。」
　
　
勝者のナオさんが笑っている。
　
はっきり言って、ナンパではない。

ナンパなんて、どうでもいいのだ。

ナンパという体裁をとりながら　　
女の子の前で、オレに恥ずかしい事を
言わせたいだけなのだ。
　
　
　
　
　
ナオさんに、
ナンパの台詞を小声で言い伝えられる。
　
　
ゲル：「エエエエエエエッ！！
　　　　そんなん無理でしょ！！」
　
　
ナオ：「いいから
　　　　ナンパしてきてくださいよゲルタくん。」
　
　
ナオさんは、元シンナー中毒だ。
　
ここは大人しくいう事を聞いておこう。
　
しかし、ナンパなんて、
オレの人生で、遠い昔に1、2回しかない。
　
いくら、台詞が用意してあるからと言って、
どんな顔して近づけばいいのか解らない。
　
第一声は、なんて言えばいいのだ？
　
「ヘイ！彼女！」か？
　
「ヘイ！」ってなんだ。
　
アメリカかぶれか。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
シブシブと、女の子に近づくオレ。
　
他のメンバーは、
ジュースを買うフリをして女の子達に近づき
オレが、指示どおりにナンパするかどうか
確認しにきていた。
　
なんてヒドイ男たちだ。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
オレは、女の子達の前に立ち、
おそるおそる切り出した。
　
　
「あの〜」
　
　
怪訝な顔でオレを見上げる女子3人。
　
横目で見ると、
ナオさん達が声をあげずに笑っている。
　
オレはヤケクソ気味に
ナオさんから言われたとおりの言葉を口にした。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
「ウチ、最近、
　ウォシュレットにしたんだけど見にこない？」
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
固まる女。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
オレ、ボウリング場から逃亡。