実況。
2003年9月7日野球中継でもサッカー中継でも競馬中継でも、
スポーツ実況というものがキライだ。
それが仕事と言えども、
あの、無駄に大声を張り上げたり、
無駄な情報を垂れ流して、
面白い事を作り上げようという姿勢がキライだ。
スポーツとは、ソレだけで面白い物で、
余分な言葉はいらない。
少し前の野球中継で、あるアナウンサーが、
40代ピッチャーの情報として、
「今日、10個以上の三振を獲ると、
40歳以上で二桁三振を3回獲った事になり
これは、日本新記録になります。」
という事を言っていた。
確かにスゴイ事なのだろうけど、
そういうのをいちいち記録と言って称えていたら、そのうち、
『ベンチから
バッターボックスまでの最短歩数』とか
『股間の
ファウルカップの位置を直した回数』とか
そんなんも記録にしなくちゃイケナクなる。
スポーツとは、もっとシンプルなはずだ。
しかし、忘れられない実況もある。
かつて、
競馬にオグリキャップという名馬がいた。
公営笠松競馬場から中央競馬に殴りこみをかけた
そのドブネズミ色で、やたら顔がデカイ馬は
本当に強かった。
競馬とは本来、十数頭の馬が競走するものだが、
オグリが走るレースは全て、
オグリを中心にして動いていた。
第四コーナーを回って、
オグリが、先頭との差を一気に縮めた時、
実況は、ただ1つの言葉を繰り返すだけになる。
「オグリ来た!!オグリ来た!!オグリ来た!!」
オグリが走るレースでは、殆どの実況が、
この「オグリ来た!!」で終わってしまった。
それは、レースを見ている人の関心が、
『どの馬が勝つか』ではなく、
『最後の直線で、オグリがいつ先頭に来るか』
というものである事の表れであって、
オグリキャップという馬はそれほど強く、
また、見ている者も、
オグリが負けるとは考えたくもなかった。
これは、子供の頃、父と一緒になって
競馬を見ていたオレに強い衝撃を与えた。
しかし、
いかに強くても、やはり衰えというものは来る。
タマモクロスというライバル馬と
激戦を繰り広げた翌年、
オグリキャップはスランプに陥る。
重賞レース、三回連続の惨敗。
そして、その実況に、
オグリの名が出てくる事は少なくなっていた。
そして、オグリの引退レースとなった
『平成2年 第35回 有馬記念』。
多くの人がオグリの衰えを感じ、
オグリは鞍上に、天才・武豊を迎えてはいたが
人気を下げ、また、ウチの父も、
オグリの馬券を買ってはいなかった。
そして、レースが始まり、
馬群は最終第4コーナーを回る。
馬群の中程につけていたオグリが
一気に、先頭を走るオサイチジョージに近づく。
それは、全盛期のオグリと同じ走りで、
テレビの競馬中継を見ていたオレは震えた。
それは、そのレースの実況も同じだったのだろう。
実況は、
口にする事が少なくなった
オグリの名前を思い出したかのように、
また、その名前を呼びたかったのだと
言わんばかりに
ただ、ひたすらに叫びに近い声をあげた。
「さぁ、オグリキャップ!!
先頭に立つか!!
先頭に立つか!!
オグリキャップ先頭に立つか!!
オサイチ頑張った!!
オサイチ頑張った!!
オグリキャップ先頭か!!
オグリキャップ先頭か!!
(残り)200を切った!!
オグリキャップ先頭!!
オグリキャップ先頭!!
オグリキャップ先頭!!
そして!!
ライアン来た!!
ライアン来た!!
ライアン来た!!」
先頭に立ったオグリに、
後方から一気にメジロライアンが近づく。
「オグリキャップ先頭!!」と
「ライアン来た!!」を繰り返す実況。
それは、
「オグリ、
このまま1着で駆け抜けてくれ」といった
祈りにも近く、また、
「ライアン来た!!」と言いながら、
「ライアンよ、来るな!!」と
言っているようであった。
そして、その実況同様、
その祈りは、ウチでも起きていて、
オグリの馬券を買っていなかった父も、
テレビ画面に向かって、
「オグリ来た!!オグリ来た!!オグリ来た!!」
と、全盛期のオグリが走るレースの
実況と同じ言葉を繰り返していた。
「しかし!!
オグリ先頭!!
オグリ先頭!!
ライアン来た!!
ライアン来た!!
オグリ先頭!!
オグリ1着!!
オグリ1着!!
オグリ1着!!
オグリ1着!!
右手を挙げた武豊!!
オグリ1着!!
オグリ1着!!
見事に、引退レース、
引退の花道を飾りました!!
スーパーホースです!!
オグリキャップです!!」
鳥肌が立った。
ウイニングランをするオグリと武豊に送られる
観客の「オグリ!!オグリ!!」の声援に
涙が出た。
競馬を見ていて涙が出る事なんて、
それ以降、一度もない。
実況がキライなオレでも、
オグリの引退レースの実況は忘れられない。
それは、オグリキャップという名馬に
出会えたからであるし、また、
そのレースが、実況をも
ほんの数個の言葉だけを繰り返させる程に
素晴らしいレースだったからなのであろう。
http://sakai.cool.ne.jp/eichan_s/uma/oguri.htm
明石家さんまさんもあちこちで言ってて有名だし、
気付いた人もいると思うが、
「オグリ先頭!!」と叫ぶ実況の陰で、
解説である、競馬の神様、大川慶次郎さんが
「ライアン!!」と
解説という自分の立場も忘れて、
自分が応援しているメジロライアンの名前を
叫んでいて笑える。
また、実況は、
「右手を挙げた武豊!!」と伝えているが、
当時のビデオを見直した時、
武豊が挙げているのは左手である事に気付いた。
まぁ、それほどスゴイレースで
実況も大川さんも
見ているオレ達も
ただひたすら興奮したからなのだろうね。
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