成人式。

2004年1月12日
 
 
 
今から10年前、
オレは、約4000人の若者が集う体育館の、
そのステージの上に立っていた。
 
目の前には、市長。
 
両脇には名前も知らないエライ人達。
 
そんな中オレは、
そのステージの上で一枚の紙を広げ、
そこに書いてある文章を
読み上げようとしていた。
 
そう。
 
オレは、10年前のウチの市の、
新成人代表だったのである。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ナゼに、
このオレのようなオツムてんてんが
新成人代表に選ばれるのかと、
疑問に思われる方もいると思う。
 
それなら答えは簡単。
 
その年の、新成人代表を決める係が、
オレの叔父さんだったから。
 
言わば、叔父さんの、
『身近なものでどうにかしよう作戦』だ。
 
きっと、叔父さんは
新成人代表を探すのがメンドクサかったのだ。
 
そういやゲルが成人だなーって思い出して、
手っ取り早くオレにしたのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
叔父さんから連絡が来た時、
オレは、新成人代表の話を一度は断った。
 
なんせ、その頃のオレといったら、
オツムてんてんの絶頂期みたいなもので、
ヤンキーな先輩に
ロケット花火をブチ込んで車に監禁されたり、
海の近くの旅館で、
ヤクザにボコボコにされたり、
気に入らない部長の車のボンネットに、
犬のウンコを乗っけて遊んだりしていた。
 
とても、大人とは思えないような人間だったのだ。
 
今もだけど。
 
そんな人間が、
成人代表を務めるなんてのは、ドダイ無理な話。
 
なにしろ、メンドクサかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
だが、叔父さんからの依頼の電話を断り、
その受話器を置いた瞬間、
オレの頭に、1つの考えが浮かんだ。
 
 
 
 
 
「成人代表になったら、
 やっぱり、TVに映るのかな?」
 
 
 
 
 
てんてんだ。
 
ジツに、オツムてんてんな発想だ。
 
 
 
 
 
だがオレは、
すぐに、叔父さんの家へと電話した。
 
そして、叔父さんに
さっきの疑問をぶつけた。
 
すると、叔父さんの答えは。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「おう!!
 もう、アップで映るぞっ!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そ、
 
その話、ノッた!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そしてオレは、
新成人代表となったのである。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「続いて、新成人誓いの言葉!!
 新成人代表、ゲルタ・ザビ君!!」
 
 
 
 
 
司会の声が館内に響く。
 
いよいよ、オレの出番であった。
 
 
 
 
 
「ハイッ!!」
 
 
 
 
 
オレは、
6・3・3で12年の間でも
出した事のないような声で返事をする。
 
そして、席を立ち、
一歩、また一歩と、ステージへの階段を上がった。
 
 
 
 
 
「おらぁ、ゲルターッ!!
 オレらはオマエなんか
 代表に選んだ覚えはないぞーっ!!」
 
 
 
 
 
後ろでは、
オツムてんてんな友人の声が聞こえる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ふん。
 
バカめ。
 
オレはもう、
そちら側の人間ではないのだよ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そしてオレは、紙にかいてあった
「新成人誓いの言葉」を読み上げた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ゲル:「私たちは、
    やがて訪れる21世紀に向かい、
    国際人として、
    日本のみならず、
    世界の平和と進歩に・・・・・・
 
 
 
 
 
    ・・・こう?
 
 
 
 
 
    ・・・けん?(貢献)し、
 
 
 
 
 
 
    その為に、
    日々の努力を・・・・・・
 
 
 
 
  
    ・・・・・・らず、」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
市長:「おこたらず。(怠らず)」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ゲル:「怠らず、
    ますます・・・・・・
 
 
 
 
 
 
    ・・・・・・
 
 
 
 
  
    ・・・・・・
 
 
 
 
  
    ・・・しんしていく事を〜」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
市長:「まいしん。(邁進)」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
だって!!
 
 
 
 
 
オレが書いた原稿じゃなかったんだもの!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

コメント

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

この日記について

日記内を検索