恋ニ堕チテ。 〜 大袈裟編 〜
2004年2月6日 日常恋というものは
誰にでも突然やってきて人を詩人に変える。
そしてその日、
田舎町のコンビニで新たな詩人が誕生した。
男は謳う。
喜びに満ちた詩を。
『 貴女の瞳は泉。
森の奥くで七色に輝く、ひっそりと眠る神秘。
貴女の肌は雪。
触れればそっと溶けてしまいそうな、淡く白い結晶。
貴女の髪は夜。
全てのものを包み支配する、圧倒的な闇。
貴女の口は鎖。
全てのものを優しく束縛する、甘い甘い媚薬。
貴女の声は小鳥のさえずり。
全てのものに平等に新しい朝を告げる、生命のささやき。
貴女は太陽。
圧倒的な力で大地を支配する、優しく、力強い光。 』
男は、もはやそれに抗う事も出来ずに、
その鎖に締め付けられる事に喜びを感じ、
身体の奥から湧き出る喜びの詩を吐き出すのみとなる。
女は、それさえ知らずに、
ただ、本能と欲望を満たす為に、
向かい合う女に己の欲求を告げる。
「肉まん1つください。」
男は謳う。
『 肉まん!!
嗚呼、肉まん!!
どうして私は肉まんとして生まれなかったのか!!
肉まんとして生を受けたならば、
肉まんな私の力で、
貴女に少しの満足感を捧げられただろうに!! 』
震える男をよそに、
女は、さらに己の欲求を満たすべく言い放つ。
「あと、あらびきフランク1つ。」
あらびきフランク!!
「肉まん」と「あらびきフランク」!!
その組み合わせがっ!!
その組み合わせが貴女の口からぁっ!!
「肉まん」、「あらびきフランク」、
それぞれ、1品ではなんの効果も持たない食品であるが
それが組み合わさった時、
そしてそれが、想いを寄せる女性から聞かされた時、
男にとってはトリカブトよりもはるかに猛毒となり、
悪魔の術となる。
女の言葉に、
男の体温は上がる。
鼓動が、そして呼吸が速くなる。
男の全身を貫く、痺れにも似た感覚。
男の身体は、
あまりの衝撃に、石と同じになる。
男は、猛毒を飲まされたのだ。
悪魔の術にやられたのだ。
しかし男は、
動きが取れぬようになったまま謳う。
『 嗚呼、
貴女はセイレーンか?
それともメドゥーサ?
私は動けなくなくなってしまった。
しかし、私は石になったとて謳うのです。
優しい悪魔よ。
美しき怪物よ。
貴女に捧げる詩をっ!! 』
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