4月中旬。
オレと同部屋の、
オレの向かいのベッドに入院していた爺さんは、
自分の手術日の前日になって
次の日に迫った手術の緊張を解そうとしているのか、
やたらとオレに話し掛けてくるようになった。
爺さんは、訛りのないキレイな言葉で絶え間なく話し、
オレは、始めはソレがうざったくて
適当に相槌なんかをうっていたのだが、
しばらくすると、
爺さんの話の面白さにどんどん引き込まれていった。
爺さんは、愛媛県の、
歴史上名高い村上水軍の拠点があった小さな島の出身だった。
定年で退職するまでを愛媛県で過ごし、
それからの自由な時間は、
日本をどんどん北上しながら美しい風景を求めて、
あちこちに移り住んだそうだ。
「綺麗な風景が見たかったんですよ」
たったそれだけの理由で、和歌山、静岡、千葉、
そして今は、福島の三春町。
樹齢1000年を越える、三春の滝桜を
遠くに眺める事ができる場所に居を構えているとの事だった。
「花が咲いた春の滝桜もいいけど、
冬の滝桜もなかなかいいんですよ」
福島生まれのオレに、
愛媛生まれの爺さんが福島の名所を語る。
それがなんとも可笑しく、
オレは、ただ笑って聞いていた。
それから爺さんは、
爺さんが子供だった頃の事を話してくれた。
サザエを獲って、
それを売り歩いて小遣いをかせいでいた事。
家出をして山に入り、
1週間の間、自分で獲った魚と、
他人の畑から盗んだ果物や野菜を食べて過ごした事。
そして、自分の生まれた島の美しさ。
爺さんは、そんな話を1つ1つ思い出し、
そして、それを懐かしむように話した。
「いつの間にかに、遠くに来ちゃったなぁ」
爺さんは、窓の外の風景を眺めながら、
後悔ともとれる言葉を吐いた。
「帰りたいって思う?」
質問してみる。
質問してから、帰りたいのは当たり前だと思い、
オレは、質問した事を少し後悔した。
「こんな身体になっちゃ、もう帰るのは無理ですよ」
自分の身体に巣食う大病を知っている爺さんの言葉は、
ほとんど諦めの言葉だった。
帰りたくても帰れない、そんな思いが滲んだ言葉だった。
そんな爺さんには、
どんな言葉をかけてもただ上辺だけの言葉になりそうで、
オレは、爺さんと一緒にただ窓の外を眺めるしかなかった。
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●しらたま様。
●D.K.Verno様。
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只今、こちらのリンクが制限いっぱいなもので
相互できずに申し訳ありません。
下品でくだらんオレの日記ですが、よろしくお願いします!!
楽しみに読ませていただきます!!
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