ソレは昨日の話である。
とある店のトイレの個室に入り、
オレはしっかりと鍵をかけた。
それによって、
個室の表側のドアノブの下の表示は青から赤に変り、
この個室が使用中だという事を表す。
つまりソレは存在証明。
このトイレの個室に入っているオレの、
無言の存在証明である。
しかし、暫くするとヤツはやってきた。
“コンコンッ”
ドアをノックする音。
オレが入っている個室のドアをノックする音。
オレが、鍵をかけて表側の表示を青から
使用中を現す赤に変えているのにも関わらず、である。
ヤツは、ノックをして
「このトイレには誰か入ってますか?」
という確認をしてきた。
確かに、ドアノブの下の表示だけでは心許ない。
その表示が青から赤に変っている事を
見落とす人間もいるであろう。
そしてヤツも、その表示を見落としたのだろう。
仕方なしにオレも、
「このトイレは使用中ですよ〜」
「ウンコしてますよ〜」
の意味をこめて、コンコンとノックを返す。
第二の存在証明。
今、オレがここにいる事の証明。
オレがノックを返せば、
ヤツも、この個室は使用中だとい事に気付き、
他のトイレに行ってくれるだろう。
そう思った。
しかし、その考えは甘かったのである。
少なくとも、ヤツに対しては。
“コンコン”
オレがドアを内側から叩く音は、優しく響いた。
「これでヤツも、
このトイレが使用中であるという事に気付き
諦めて他のトイレに向かうだろう」
そう思った矢先。
“コンコンッ”
またである。
またヤツはノックしてきたのである。
オレがノックを返して、個室の中に
その存在をアピールしてるのにも関わらず、である。
オレはノックを返した。
ノックを返して、その存在を証明した。
しかし、ヤツはまだノックをする。
ソレはどういう事だろうか。
1度目のヤツのノック。
ソレは、「使用中かどうか」という事を
確認する為のノックだったはずである。
そして2度目のヤツのノック。
ソレは、ヤツの1度目のノックとは意味が大分違う。
1度目のノックは存在確認で、
ソレに対してオレは、その存在を証明している。
つまり、ヤツもその個室の中に
オレが存在している事を理解しているはずだ。
それなのにヤツはまたノックをしてきた。
つまりソレは、
「早く出てもらえませんか?」
という催促である。
オレに早く出るように促しているのだ。
「早く出て」とノックされても、
こちらだって人間である。
一度始まった生理現象は止められないのだ。
ヤツの2度目のノックに対してオレは、
“コンッ”
と一度だけ、強くドアをノックした。
「入ってるってば!!」
そんな思いを込めて。
しかし。
“コココンッ”
連打である。
ヤツは個室のドアを苛立つように連打でノックしてきた。
2度だ。
オレは、2度もヤツのノックに対して、
誠意をこめて対応している。
ソレなのにヤツはまた、
3度目のノックをしてきたのである。
ここまでくると、
ヤツのノックの意味も、
始めとはガラリと変ってくるだろう。
ノックも3回目となると、ソレは
「早く出ろ!!」
そんな意味になってくる。
脅迫。
ヤツの3度目のノック。
ソレは紛れも無い脅迫。
ノックという、紳士的な態度に隠された、
優しい脅迫。
そんな脅迫に、このオレが屈するものか!!
あらゆるテロや脅迫と、オレは闘っていくのだ!!
オレは、
なるべく低い、ドスのきいた声を心がけながら、
顔の見えない脅迫者に言った。
「てめぇ。
こっちだってウンコしてんだよ!!」
・・・・・・
諦めて違う階のトイレに向かったのか、
ヤツの、せわしい足音が聞こえてきた。
勝った。
オレは、優しい脅迫に屈するどころか、
逆に追い払ったのである。
ざまぁみろ、このウンコ野郎っ!!
そこらでウンコしやがれっ!!
ウンコ漏らせっ!!
・・・・・・
その時、
トイレの中で、
ドアの向こうめがけてガンをくれるオレのケツは
ペロンと出ていた。
コメント
でももし相手がヤンキーとかだったら「こっちだってウンコしてぇんだ!!」とか返されそうですよね。私はちょっと負けそう。
ちなみに
この間家に帰ると窓を閉め切っていたせいで部屋がすごく暑くてでもトイレに行きたくなって「トイレはもっと暑いんだろうな」とか思いながらトイレにいったんですよ。
そしたらなぜかトイレがすごくひんやりしていて涼しいんですよ。もちろんトイレの窓も締め切っていたのに。
あれはどうしてだったんだろう?
でももし相手がヤンキーとかだったら「こっちだってウンコしてぇんだ!!」とか返されそうですよね。私はちょっと負けそう。
ちなみに
この間家に帰ると窓を閉め切っていたせいで部屋がすごく暑くてでもトイレに行きたくなって「トイレはもっと暑いんだろうな」とか思いながらトイレにいったんですよ。
そしたらなぜかトイレがすごくひんやりしていて涼しいんですよ。もちろんトイレの窓も締め切っていたのに。
あれはどうしてだったんだろう?