マサコ。
彼女はオレの友人であり、
オレが現在入院している病院の看護婦でもある。
何年か前に入院した時に彼女と知り合い、
ソレ以来、たまに一緒にご飯を食べたり、
また、電話で健康上の相談に乗ってくれるなど、
友人として続いている。
オレとはとても気が合う、ノリのイイ女性だ。
手術を翌日に迎えた日の昼、
手術に向けて着々と準備を進めて行くオレに向かって
そのマサコが言った。
「いよいよ明日手術じゃん。
準備はだいたい終わりでしょ?
後はお腹の周りをキレイにするだけだよね」
『お腹の周りをキレイにする』
こんな風に言えばワリと簡単なことに聞こえるかもしれないが、
早い話、『お腹の周りをキレイにする』とは、剃毛の事である。
ご存知の方も多いと思われるが、『お腹の周り』とは言うけど
当然、シャイなアンチクショウ周りまでの毛を剃るのである。
看護婦の言う『お腹の周り』というのは広いモノだ。
「誰がやってくれるの?
もしかしてマサコがやんの?」
「いや、違うと思うよ〜」
しかし、それから1時間ほどして、
剃毛用具一式を持ってオレの前に現れたのは、マサコであった。
「マサコがやるんじゃん!!」
「うん、あたしになってしまった・・・」
ええええっ!!
オレは大声で「驚き+抗議」の声をあげた。
「友人に剃毛される」
ソレがどんな気持ちか解るだろうか。
恋人でもない、ましてや遊び相手でもない、「友人」である。
とても中途半端な相手に、
自分のアンチクショウを晒さなければならないのだ。
「MYアンチクショウ」が、
「シャイなアンチクショウ」だという事が、友人にバレてしまうのだ。
「だってしょうがないじゃん!!
みんな忙しいんだから!!」
そう言われてしまえば仕方ない。
オレは、パンツを少しだけ下ろした。
モゾモゾとパンツを下ろすオレの横で、
マサコは、手に、薄いゴム手袋をはめた。
「何!?手袋すんの!?
なんか、すげぇ汚いモノ扱いされてる気がすんだけど!!」
「いや、そういうワケじゃないけど・・・」
「だったら手袋を外せ!!生にしろ!!」
「生って言うな!!」
そんなやり取りをしていると、フイにマサコの表情が変った。
プロの表情である。
プロの表情になったマサコは、
なんのためらいもなく、オレのパンツを脱がす。
そして、オレのシャイな部分に1枚のガーゼを乗せると、
後ろからひとつの器械を取り出した。
「何!?バリカン!?」
そう、マサコが取り出したのは、
「キレイなお姉さん」がワキを処理したりするのに使用する、
小型のバリカンであった。
「ヴィ〜ン」
バリカンの音がする。
オレは目を瞑りその音を聞きながら、「難しい事」を考えていた。
「難しい事」を。
とにかく「難しい事」を。
男のシャイな部分には、「諸事情」がある。
ソレはとても厄介な「諸事情」で、
自分の意志に反して、ほんの少しの刺激に反応して
ターボ化してしまったりする、面倒な「諸事情」なのだ。
そんな「諸事情」を友人に見られてしまっては・・・
オレは、その「諸事情」を防ぐ為に、
ヒタスラ難しい事を考えようと努めた。
にんいちがに、ににんがし、にさんがろく、にしがはち・・・
イヤ、ダメだ。
二の段は簡単すぎる。
しちいちがしち、しちにじゅうし、しちさんにじゅういち・・・
ちうか、ナゼに掛け算!?
ナゼに難しい事と考えて出てくるのが掛け算なのか、オレ!!
九九の段を変えれば済む問題ではなかろう!!
オレは小学2年生か!!
よし、次は歴史を考えよう。
・・・・・・
いいくにつくろう・・・
出たよ!!
鎌倉幕府だよ!!
オレが自分のレベルの低さを嘆いていると、
マサコが操るバリカンの音が止まった。
するとマサコは不意に、バリカンによって刈られた毛を飛ばそうと、
オレに向かって「フーッ」と息を吹きかけた。
「わ!!ちょっと待って!!息はかけないで!!」
「え?切った毛がさー」
「や、だって・・・」
「・・・・・・」
マサコは、
男の「諸事情」を理解してくれたようだった。
バリカンで毛を狩って、
ソレで全て終わりかと思って安心していたオレに
マサコが取り出し見せたのは、除毛クリームだった。
「何?除毛クリームまで塗るの?」
「そうだよ。
もう、ツルンツルンにするんだから・・・」
「ツルンツルン」
そう言ったマサコは、途中で何かを思ったらしく、
急に恥ずかしそうに顔になった。
そしてマサコは、
オレのシャイな部分一帯に、除毛クリームを塗りたくった。
その間、相変わらず掛け算をするオレ。
クリームを塗られるのはヤバかった。
オレの掛け算も九の段にレベルアップだ。
そしてクリームを塗り終えると、マサコは、
「んじゃ、10分間放置しまーす」
そう言って、部屋を出て行った。
10分。
チンコ出したまま10分。
ソレはとても長く感じられた。
そして10分経ってマサコは戻ってくると、
塗りたくられたクリームを拭き取る作業に入った。
拭き取る作業は、なんだかゴシゴシと痛いほどで、
オレは、掛け算をする事もなかった。
そして、全部拭き取られるクリーム。
アラワになるシャイなアンチクショウ。
シャイなアンチクショウがいかにシャイと言えども、
オレのアンチクショウに、逃げ場は無かった。
逃げ場も隠れ場所も無いほど、アラワになってしまった。
ソレを見たマサコ、
「ゲルタ君って何歳だっけ?」
「もうすぐ32・・・」
オレは、そう答えると、少し憂鬱な気分になった。
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