佐々木投手を初めて見た時のことは覚えている。
確か、オレはまだ小学生で、
お盆休みに父親の実家がある青森に帰省した時に立ち寄った
青森県のドライブインのTVが映し出していた甲子園中継で見たのが
初めてだった。
甲子園の何回戦だったかは覚えていないけど、
佐々木は、東北高校のエースとして、甲子園で活躍していた。
ドライブインに置いてあった小さなTVからは、
佐々木の快投を伝える実況が延々と繰り返されてたような気がする。
そのドライブインで、ウチの家族は全員でカレーライスを食べた。
父親は、ヒソヒソ声のつもりで
「ここのカレーって不味いよな?」とオレに話し掛けてきたけど、
耳が悪い父親の声は大きく、周囲にダダ漏れで、
オレは、恥ずかしかったのを覚えている。
そしてオレは、そんな父親が恥ずかしかったから、
オレは1人で家族から離れて、インベーダーゲームの
テーブルの上でカレーライスを食べた。
家族全員がカレーライスを食べ終わった後も、
父親は、甲子園の佐々木に夢中で、
実家に向けてなかなか出発しようとしなかった。
当時は、福島のウチから青森のむつ市にある実家までは
車で9時間近くかかったのだから早く出発すればいいものを、
父親は、ドライブインにいた他の客と仲良くなって、
一緒に甲子園の佐々木を応援していた。
なんか、
「佐々木が所属していた東北高校がある宮城県と、
ウチの福島が隣同士の県だ」という
たったそれだけの理由で、
父親は、他の客に、
「いいピッチャーだろ〜」などと
まるで、自分の子供を自慢するかのように話していたような気がする。
父親は、佐々木見たさにずっとそのドライブインに
居座ることがさすがに悪いと思ったのか、
カレーライスを食べ終わったオレに、クリームソーダを
追加で注文してくれた。
そして、オレに言った。
「お父さん、テレビ観たいから、これ、ゆっくり食べろな」
オレは、
でろでろに溶けてしまったクリームソーダのアイスを
少しづつ食べながら、インベーダーのUFOを撃ち落として
高得点を得ることに必死になっていた。
結局オレは、自分の小遣いを使い果たし、
父親は、そのドライブインで、最後まで東北高校の試合を見た。
あの夏からもう、何年経ったのかはよく判らないが、
今日、東北高校の佐々木は、
横浜ベイスターズの佐々木として、野球人生を実質的に終えた。
佐々木の快投を見る度に思い出していた、
あのカレーライスとクリームソーダの味は、
もう、思い出すことはないのだろうか。
父親が不味いと言っていたカレーライスは、
オレには、とても美味しかったように覚えている。
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