偶然、懐かしい顔に会った。
その相手とは、オレが高校の3年の時、
1学期の途中から2学期の終わりまでの間だけ
ウチのクラスの英語を教えてくれた臨時の女の先生だ。
名前はジュンコ先生。
多分、ウチらの授業を受け持ってくれた時は
二十代半ばくらいだったろうから、今は四十才くらいか。
それまで英語を教えてくれた爺さん先生が病気になった為に、
ジュンコ先生はほんの少しの間、オレ達に英語を教えてくれた。
まぁ、教えてくれたと言っても、
男だらけのクラスに若い女の先生がやってきて、
しかも胸がすっごいデカかったりするもんだから、
オレ達は、英語の授業どころではなかったのだが。
久しぶりに会ったジュンコ先生は、
お互いの人生のうえでほんの少しの接点しかないのに、
まだオレの事を覚えていてくれて、
「ゲルタ君でしょ?」と、オレに声をかけてきてくれた。
「よく覚えてたよね」と言うと、先生は
「忘れるワケないじゃんか」と笑って応える。
ソレは、オレが起こした事件のせいであった。
その事は、今でもはっきり覚えている。
そしてソレは、今でも仲間たちの間ではこう呼ばれている。
『宮沢りえ事件』
先生史上初めて、オレが先生を泣かせた犯人である。
その日、いつものようにオレは、遅刻気味に学校に着いた。
もうすぐ始まる1時間目の英語の授業。
しかしクラスの中はいつも以上にざわついていて、
そして、ある話題で持ちきりだった。
宮沢りえが、脱いだのである。
当時、アイドルとして大人気だった宮沢りえが、
ヌード写真集『Santa Fe』を出したのである。
オレは、遅刻ギリギリなくらい慌てていたので当然TVなど見てなく、
そんな情報は全くもって知らなかったのだけれど、
クラスのヤツの大半はその情報を知っていた。
オレは、自分ばかりがその事を知らなかったのに妙に焦ったのか
ただただ宮沢りえのヌードが見たかっただけなのか今では判らないが、
1時間目のチャイムが鳴るとほぼ同時に、
宮沢りえのヌードが載っているという
スポーツ新聞を買いに教室を出た。
途中、ウチのクラスに向かうジュンコ先生とすれ違い、
何かを言われたのだけれど、ソレは無視してオレは、
コンビニに向かった。
しかし、その日はやはり、宮沢りえのヌードが見れるという事で
スポーツ新聞はバカ売れだったようで、
オレがその新聞を手に取ったのは、3軒目のコンビニであった。
そして、フラフラと教室に戻る。
クラスのヤツらは、授業などそっちのけで(いつものことだが)、
オレが買ってきた、宮沢のヌードが載ったスポーツ新聞に
我先にと飛びついた。
先生は言う。「どこに行ってたの?」
「宮沢のヌードが載ってる新聞を買ってきましたー」
オレは悪びれもせずに応えた。
すると先生は、
新聞に群がる男達になんの表情も浮かべずに割って入ると、
新聞をとりあげ、グシャグシャに丸めて床に投げ捨てた。
その先生の行動がなんだかムカついたオレは(オレが悪いのだけれど)
ソレを拾いあげると、黒板に近づき、
そのヌードが載った新聞を、磁石で黒板に貼り付けた。
そして、言った。「先生も見れば?」(今思えばチョーセクハラ)
すると先生は、オレをビンタした。
そして、泣いた。
その日はもう、授業どころではなくなってしまった。
オレは職員室に呼び出され、午前中の間、
ずぅっと職員室の入り口で正座をさせられた。
オレは正座をしてる間、ほんの少しだけ、
先生に悪い事をしたかもしれないと思っていた。
そんな事件があった後、オレは、
英語の授業はなるべく真面目に受けるようになった。
ベツに勉強などはしないしノートにも何も書かないのだけれど、
授業中は静かにしてようと思った。
しかし、まわりのみんなは相変わらずで、
先生の授業はざわついた中行われていた。
先生の授業は、ちゃんと聞いてみると面白いもので、
その授業時間の3分の1くらいは、英語の歌や、
外国の映画について教えてくれるというものだった。
ソレは、先生なりの、生徒に興味を持たせる為の工夫だったのだろう。
洋画や洋楽が好きだったオレは、ごく自然に、
先生が教えてくれる事に耳を傾けた。
ある日、先生は『ローマの休日』の話をした。
英語の授業などは関係なしに、映画の話をした。
先生が好きだというオードリー・ヘプバーンの話。
オレは、『ローマの休日』はワリと好きな映画だったので、
その先生の話を楽しく聞いていた。
すると先生は、突然質問をした。
「この映画で、ヘプバーンの相手の
新聞記者の役をやった俳優が誰か、知ってる人はいる?」
グレゴリー・ペックだ。
オレは、手を挙げた。
多分ソレは、高校3年間の間で、最初にして最後の挙手だったと思う。
そして、答えた。
先生はオレに拍手をくれ、
「すごいね。『ローマの休日』は好き?」と訊いた。
オレは「うん」とかなんとか、そんな返事をした。
嬉しかった。
先生は、「ゲルタ君に拍手ー」とか言って、
周りに拍手を促したけれど拍手するヤツなど誰もおらず、
かわりに飛んできたのは冷やかしの言葉だけで、
そしてその中に、タケちゃんのこんな言葉があった。
「誉められて喜んでんなよー」
オレは、ナゼか判らないけれどカッとなった。
そして、教室の後ろのほうにあるタケちゃんの席に進むと、
その机の上に乗った。
そして、タケちゃんの顔面を思いっきり蹴り上げた。
教室はパニックになり、
オレはみんなに取り押さえられ、そして、職員室に連れて行かれた。
また正座だった。
今度は自宅謹慎付き。
先生はまた泣いた。
その後、先生はオレ達のグループと仲良くなって、
(オレとタケちゃんも仲直りして)、
休日に行われてたオレ達が組んでたバンドのライブに
わざわざサンドウィッチなんかを作って
遊びにきてくれるようになった。
先生は、ベツにオレ達が酒を飲んでからステージに上がる事などには
何も言わなかったけれど、ただ、
「先生の前でタバコを吸うのはやめてくれないかな」と言っていた。
しかし、そんな中、
爺さん先生の病気がよくなって、ジュンコ先生は
3学期からいなくなってしまった。
オレは正直、ちょっと悲しかった。
そしてオレは、また英語の授業を受けなくなった。
ジュンコ先生と会ったのは、それ以来である。
「よく覚えてたね」というオレの問いに、先生は
「忘れるワケないじゃんか」と応えた後、こう続けた。
「先生の教師生活の間で、
キミ達が1番の問題児クラスだったから」
先生は今、結婚して、教師を辞めたのだという。
先生はこう続けた。
「よく私のことも覚えてたね?」
当たり前だ。
あんなデカい胸は見たことないんだから。
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●みーこ様。
あー、グリーンマイル!!
アレ、泣くから絶対に見ない!!って思ってたんだけど、
オレ、うっかりTVで見て号泣してしまいました。
敗北しました、グリーンマイルに。
「SAW」は面白いですよ。2は緊張しまくりだけど、
1作目はそれほどでもないかも。
しかもめちゃくちゃオモロイです!!
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