いつの間にか、2月になっていた。

僕が思うところ、1年の間で1番寒いのは、
この、2月という月かもしれない。
ソレは単に、「気温が」というワケではなくて、
2月というのは、心が冷え切ってしまうのだ。

ソレは、2月にあるあのイベントのせい。
そう、バレンタインデーだ。
あのイベントは、毎年自分の情けなさを改めて思い出させてくれる。
そしてまた、過去にあった最悪のバレンタインを思い出させてくれる。

過去最悪のバレンタイン、僕たちはソレをこう呼ぶ。
 
 
 
『悪魔のバレンタイン』
 
 
 
 
 
 
 
高校3年生のその日、僕たちは朝からソワソワ落ち着かなかった。

バレンタイン。
1年に1度きりの特別な日。
「♪明日は特別スペシャルデー」と国生さゆりも歌ってるあの日。
僕たちは誰もが、淡い夢を抱いて教室にいた。

「もしかすると今日、女の子に告白されるかもしれない」

そんなドラマのような事はほとんどないのだけれど、
悲しいかな、僕たち男の子というヤツは、
そんな夢を抱いてしまうのだ。
僕たちは、そんな想いを胸に抱きつつ、
朝からの授業をこなしていた。

そして時間は、いつの間にか放課後のチャイムを鳴らしていた。

いつもならば、放課後のチャイムがなればすぐに自転車に乗って帰宅、
もしくはソッコーで遊びに行くのだけれど、その日は違っていた。
僕たち仲間はみんな、教室に残っていた。
理由は簡単。

「チョコをくれる人がいるかもしれないから」

やはり高校生にとって、
チョコを貰えるチャンスが最も大きいのは、学校である。
そして、放課後が1番のチャンスタイムなのであろう。
僕たちのクラスは機械科で、
クラスに女の子など1人もいなかったのだけれど、
それでも僕たちは、放課後になっても、いつまでも教室に残っていた。
僕たちにチョコを渡してくれる女の子の出現を待ちながら。
 
 
 
 
 
 
 
放課後のチャイムが鳴って、30分も過ぎた頃。
僕たちは、かなり焦り、そして苛立っていた。

「今年もダメなのか」

僕たちを、重い空気が支配する。
「チョコが欲しくて教室に残っている」というだけでカッコ悪いのに、
それで、チョコが貰えなかったとなればますますカッコ悪い。
僕たちは、祈るような想いで
どこの誰とも解らぬ誰かを待っていた。
 
と、そこで状況は一変する。

教室に女の子が現れたのだ。

僕たちはざわめきたった。

「誰だ?
 女の子が指名するのは誰なんだ?
 オレか?オレなのか?」

僕たちの仲間、誰もがそう思っていただろう。

しかし、その女の子が指名したのは、
僕たちと同じクラスではあるけれど、
僕たちのグループでもなんでもなく、
ただ、委員会の為かなんかに教室に残っていた、
テニス部の爽やか男子、ヨウイチであった。

女の子に呼び出され、気まずそうに教室の外に出るヨウイチ。

そして、その背中を見つめる僕ら。

その僕らの目は、明らかにワルモノの目だった。
これから喧嘩が始まる、そんな時にする目つき。
僕たちの苛立ちは、ヨウイチが女の子に呼ばれた事によって、
頂点に達したのである。

そしてソコから、『悪魔のバレンタイン』が始まったのである。
 
 
 
 
 
 
 
ヨウイチは、女の子にチョコを貰って、
気まずそうにまた、教室に戻ってきた。

そんなヨウイチに僕らは詰め寄った
 
 
 
「オメェ、チョコもらったのか?」
 
 
 
気まずそうに頷くヨウイチ。

僕たちは、有無を言わさずヨウイチに飛び掛った。
ケリを入れるモノ。
ビンタを喰らわすモノ。
苛立ちが頂点に達している僕たちはもう、獣である。
ヨウイチは、ズボンを取り上げられ、
学ランにパンツという、情けない姿にさせられ、椅子に縛られた。
 
 
 
「捨てとけ」
 
 
 
そしてヨウイチは、学ランにパンツという情けない格好で
椅子に縛られたまま、廊下に捨てられた。
 
 
 
 
 
 
 
僕たちのクラスには、女の子がいなかった。
というか、僕たちのクラスが入っている校舎には、
女の子が1人もいなかった。
共学ではあったものの、女の子がいるクラスはみんな、
反対側の校舎に入っていて、僕たちの校舎で女の子を見るのは
1ヶ月に数回、数えるほどしかなかった。

ヨウイチを廊下に捨てた後、僕たち仲間は
ベランダに出て、反対側の校舎を眺めていた。
 
 
 
「あっちには女がいっぱいいるんだよなぁ」
 
 
 
反対側の校舎を見ながら、誰かが言った。
ソレは、高校3年間をこっち側の校舎で過ごしてしまった男たちの
嘆きであり、そして、こっち側のクラスにしか入れなかった男たちの
悲しみであった。

ベランダからは、窓を通して反対側の校舎の廊下が見える。
僕たちは、その廊下を行き来する女の子たちを
ただただ見つめていた。

と、僕たちの仲間の1人が、その廊下に何かを発見する。
 
 
 
「おい、アレ、見てみ」
 
 
 
ソレは、女の子が男に、チョコレートを渡している現場であった。
現行犯である。

僕たちは悔しかった。

どうしてあんな男がチョコを貰えてるのに、
自分達はチョコが貰えないのか。
女の子と一緒の校舎というだけで、チョコは貰えるものなのか。
そのチョコを貰ってる男より、自分達の方がずっとイイ男のはずだ!!

嫉妬に狂った僕たちは、妨害工作に出た。
日光を鏡で反射させて、そのバレンタイン現場を
チカチカと照らしてやった。
 
 
 
「バーカ、死ね!!チョコ溶けろ!!」
 
 
 
そんなことを思いながら僕たちは、
そのバレンタイン現場を光で照らし続けた。

すると、その向かい側の校舎でチョコレートを貰っていた男。
僕たちに向かって中指を立てた。

僕たちはいきり立った。
 
 
 
「あいつ、オレらに喧嘩売ったぞ!!」
 
 
 
ホントは、喧嘩を売ったのはこちら側なのだけれど、
苛立ちが頂点に達していて
状況の判断が正確に出来なくなってる僕たち。

僕たちは、反対側の校舎になだれ込んだ。
そして、僕たちに中指を立てたヤツを見つけると、
またズボンをとりあげ、椅子に縛って、捨てた。
 
 
 
 
 
 
 
その後、僕たちは、
『バレンタイン取締りパトロール』を行った。
早い話が、バレンタイン現場への露骨な嫌がらせである。

校内を集団でゾロゾロと歩き、バレンタイン現場を見つけると、
 
 
 
「SEX!!あああああ〜SEX!!」
 
 
 
などと連呼して、バレンタインムードをブチ壊しにしてやった。

今思えば、恋する乙女には申し訳なかったのだけれど、
当時の僕たちにすれば、
「自分たちの魅力を解ってくれない女 = 悪」であった。
当時の僕たちは、完全に捻じ曲がっていたのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
バレンタイン取り締まりパトロールが終って教室に戻ると、
教室の入り口に、2人の女の子が立っていた。
そして、女の子の1人は、
僕たちを見つけると、ゆっくりと近づいてきた。
 
 
 
「ま、まずい!!」
 
 
 
僕たちの誰もがそう思った。
今までの流れから言えば、そこでチョコを貰ってしまうと、
確実に仲間にヤられてしまう。

パンツで椅子に縛られて、捨てられる!!

誰もがそう思った。

チョコは欲しいけれど、
できれば今はやめてくれ!!
みんながいない時にこっそり渡してくれ!!

誰もがそう思った。

そして、僕たちの誰もが自分が指名される事を恐れていると、
女の子は、僕たちの仲間の1人を指名した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「あの、リュウ先輩、ちょっといいですか・・・?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「うああああああっ!!」
 
 
 
恐怖におののくリュウ。

リュウ、パンツで捨てられる事、確定である。

僕たちは、リュウと女の子を2人きりにし、
そして、チョコを受け取って帰ってきたリュウを、
まるで何かの儀式のようにズボンを脱がせ、
パンツで椅子に縛って、捨てた。
 
 
 
 
 
 
 
僕たちは、いい加減飽きてきていた。
というか、虚しくなってきていた。

チョコを貰ったヤツをパンツにして捨てても、
『バレンタイン取締りパトロール』をしても、
自分たちは、ただただ情けないだけ。
そんなことをしたところで、
自分たちは、チョコの1つさえ貰えなかった負け犬なのだから。
 
 
 
「こんなことしてないで、早く帰ればよかったよな」
 
 
 
時間はすでに、夕方と言える時刻。
僕たち仲間は、ぞろぞろと昇降口に行く。

「さっさと帰ればこんな虚しい気持ちにならずにすんだのだ」
そんなことを考えながら僕は、下駄箱を開けた。

と、そこに、あるモノを発見。
僕の下駄箱には、自分の靴の他に、見慣れぬ物体が入っていた。

僕は、その時すぐに解った。

これは、バレンタインのチョコレート&レターだ!!

めちゃくちゃ嬉しい!!
チョコを貰えるだなんて、相手が誰にせよ、めちゃくちゃ嬉しい!!
なんせ、念願のチョコが貰えたのだから!!

僕は喜びでいっぱいだった。
皆に自慢してやりたい気持ちでいっぱいだった。

しかし、そんなことをすれば、パンツで捨てられてしまう。

僕は、そのチョコ&レターを、
皆が見てない間に、バッグにササッと仕舞いこんだ。

と、急にテツが訊いて来た。
 
 
 
「アレ?ゲルタ、今の何?」
 
 
 
し、しまった!!
見つかってしまったか!!

僕は、必死に誤魔化した。
 
 
 
「や、なんでもねぇよ!!なんでもねぇって!!」
 
 
 
テツの目が変る。
 
 
 
「今のチョコだよな?」
 
 
 
その言葉に、仲間たちの目も変った。
 
 
 
「いや、チョコじゃねぇチョコじゃねぇ、チョコじゃねぇって!!」
 
 
 
しかし、時すでに遅し。
仲間たちは、素早く僕を取り囲むと、逃げ道を塞いでしまった。
 
 
 
「何?ゲルタ、チョコ貰ったの?」
 
「いや、貰ってない貰ってない!!」
 
「じゃ、バッグの中見せてみろ」
 
「いや、これはなんでもねぇから。
 これは、あの・・・・・・・・・・弁当箱?」
 
「なんで下駄箱に弁当が入ってんだよ!!」
 
「知らねぇよ!!
 なんか知らねぇけど入ってたんだよ!!」
 
 
 
そんなオレに、
先ほどパンツで捨てられたリュウが冷たく言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ゲルタくんよぉ、
 往生際が悪いんじゃないのかい?
 オレ、オメェに殴られたんですけど」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ギ、ギィィィィィァァァァァァッ!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そしてオレは、殴られ、蹴られ、
昇降口にパンツで捨てられてしまった。
 
しかし、そんなオレの傷口に、
チョコレートはとても甘かった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

コメント

美香
2006年2月2日11:46

あっはっは! はっはっは! あーっはっは!!
…笑い死にそう。。。

オナゴはオナゴで、
 「バレンタインは苦い思い出しか無いからキライ」
 (↑告白して断られた。という類…)
…って、コトを良く耳にしますけど?
殿方は殿方で…様々な思いがあるワケですねぇ〜〜

「バレンタインは、パンツ姿で捨てられたからキライ」
そんな殿方が…いる。 ってコトでしょうか? ぐふふ。
 

nophoto
dai
2006年2月2日12:58

良い思い出ですね。
楽しく読ませていただきました。

私のバレンタインの思い出といいますと
クラスの男子の中履きにチロルチョコを片方づつ入れてそれと一緒に小さなメモで「放課後屋上に来てください。」と書いて入れておきました。
4人に試したのですがそのうち3人は「こんなことやるのはお前だけだよな」と見破られたのですが残った1名は引っかかってしまいました・・・(汗
後でマジ切れされたのは言うまでもありませんww

nophoto
dai
2006年2月2日13:01

書き忘れましたがホワイトデーの私の下駄箱にはチュッパチャプス50本&チロルチョコ50個が入ってましたw
偽ラブレターつきで^^;
「俺は男だよ!」と言って教室でばら撒きました!@v@

魔美
魔美
2006年2月2日13:24

一瞬『僕らの七日戦争』に出てくる宮沢みたいな女子が出てくるのかとドキドキしてました(笑。
でも、やはりバレンタインデーは男子もそわそわしてたなぁなんて思い出しちゃったり。
私は思いっきり義理だよ!と言ってみんなにばらまき、本命だけには手作りをそっと入れた思い出があります(笑。

ゲルタ
ゲルタ改
2006年2月2日14:48

●美香様。

そそ、
バレンダインデーは男も朝からいろいろ考えてるんですよー。
そして、いろいろある人と何もない人にわかれてしまいます(笑
いい思い出がある人はいいけれど、
多くのひとが苦い思い出があるのでしょうね、バレンタインデー。
 
 
 
●dai様。

わははは、4人に「試す」って!!(笑
オレだったらきっと、屋上にいってます。
間違いなしです。
てか、チュッパ50本とチロル50個って
ものすごいですよね!!
金額的にも結構いってますよねー。
ばら撒いちゃったんですか?
ああ、もったいない・・・
 
 
 
●魔美様。

や、宮沢みたいな女子は、
オレらの高校時代にはほとんど無縁でしたから(笑

ね、やっぱ、バレンタインは男子もそわそわしてましたよね。
もう、気が気でなかったのですよ。
勝負の一日でした(笑
魔美様は手作りで作ったんですかー。
手作りはやっぱ嬉しいんですよー。

nophoto
mami
2006年2月2日14:58

へぇ〜!皆さんいろいろあるんですねー。
私は昔も今も「バレンタイン」というものに全く思い入れがないので
なんだか別世界のお話のようです。
今年も全国各地でそんな攻防?が繰り広げられているんでしょうね。(^m^)

べるの
D.K.Verno
2006年2月2日20:01

いつも楽しく読ませてもらっています。
1/30に足跡があってめっちゃ畏れ多い気持ちでいっぱいでございます。

クリスマスに続きやさぐれシーズンがやってきましたね…
中学生の時に純情晒し上げされて以来大嫌いですあの日。



今年もむなしく自分に「お疲れチョコ」買うのかなぁ…(涙

ゲルタ
ゲルタ改
2006年2月2日22:54

●mami様。

もうオレは、毎年その日は朝からドキドキですよ(笑
全国ではきっと、沢山の人がドキドキしてるんでしょうね。
もしかすると、ドキドキしてる女の子より、
ドキドキしてる男のほうが多いかも(笑
 
 
 
●D.K.Verno様。

ありがとうございます!!

あああ、あの日は大嫌いなんですかー。
や、過去に苦い思い出があると、嫌いになってしまいますよね。
純情な時期だけに。

オレも、今年も自分にチョコ買いそうです。
バレンタインの包装じゃないやつ。

ふわり
まぅ
2006年2月2日23:33

こんばんわ。
ご訪問ありがとうございます!!感激です。
足跡機能に感謝です。

過去の思い出を忘れさせてくれるくらい
ステキなバレンタインが過ごせるといいですね♪

たくさんファンがいらっしゃるから ここで募集したら
チョコの山ができるんじゃないですか?!
私もゲルタさんにチョコあげたいです☆ラブ

ミカエル
ミカエル
2006年2月3日2:18

『女子中学生のバレンタイン』
友達と買いに行って、色々、チャンスをうかがったけど、友達ともども、あげられなくって、友達と食べてしまってました。そんな訳で、アタシの周りにはあげられた人はいませんでした。みんな、一応、買ってるのは買ってた。
人目が気になったり、後がどうなるのか、反応がこわくって。でも、同窓会があると、あん時、あげなくって良かった。ホッ。って、感じですか?

ゲルタ
ゲルタ改
2006年2月3日8:22

●まぅ様。

こんにちは!!
や、こちらこそありがとうございます!!
ホント、足跡機能は感謝ですよね。

いやいやいやいや、ファンだなんて!!
こんなんを読んでくださってる方には、ほんと感謝しています。
チョコ募集したら来るかなぁ。
てか、恐れ多くてそんな事できないっすわー(笑

オレもラヴです!!
 
 
 
●ミカエル様。

あ〜、チョコを買ったけどあげられない、
そんな女性の方って、結構いるのでしょうねー。
ソレはそれで切ないですよね。
つか、同窓会とかで昔好きだった人が激変してたりすると、
自分の選球眼が信じられなくなりますよね。

美沙妃
美沙妃
2006年2月3日9:46

ゲルタさん、こんにちは。(⌒▽⌒)

いつも楽しく拝見させて頂いてます♪
で、先程、あしあと機能を見ましたら、昨晩ゲルタさんがご訪問下さった足跡を発見っ!!
いや〜〜〜ん♪ 感激でした〜〜♪
20時23分にお越し下さってありがとうございました♪♪
せ・・僭越ながら・・・ワタクシからお礼のちゅう〜をば。。。
( ̄◎ ̄)ぶちゅ♪

ところで・・・今年は郵送でのチョコなどは募集されないのですか^^?
ゲルタさんファンとしては、是非プレゼントさせて頂きたい気持ちで一杯なのですが^^?

ゲルタ
ゲルタ改
2006年2月3日10:20

●美沙妃様。

美沙妃様、こんにちは!!
こんなんを読んでくださってありがとうございます!!
てか、そんな、感激だなんて!!
こちらこそありがとうございます。
ちゅうなんかされちゃったらもう、オ、オレ・・・

や、そんな、マジすか!?
プレゼント!!
ありがとうございます!!
もう、感激っす!!
バレンタインに無縁の男としては、めちゃめちゃ嬉しいです!!
よろしかったら、メールください!!
上の[HOME]から行けますー。

ゲルタ
ゲルタ改
2006年2月3日10:28

あ、もちろんお返しします!!(笑

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