「あれ?こんな所にこんな店、あったっけ?」
それがその店を初めて見た時の印象。
地元の小さな商店街からわき道に入ってちょっと行くと
住宅地の端っこのほうにその店はある。
ずいぶんと古ぼけた建物には
地元の催しや英会話学校のポスターが何枚か貼られていて、
2本だけ立てられた「手作りパン」と書かれた色褪せたのぼりだけが、
その店がパン屋だという事を物語る。
「こんな店、あったかな?」
その建物の古さやのぼりの色褪せ方を見れば
その店はずいぶん昔からそこにあるように思える。
オレは、生まれてすぐこの町に引っ越してきて以来33年間、
ずぅっとこの町で過ごしてきたのだけれど、
そこに、そんな店があったのかとはっきり意識したのは
その時が初めてだった。
なんとなくその店に惹かれたオレは午後1時をまわった頃、
ちょっとだけ勇気を出して、初めてそのパン屋に入ってみた。
パン屋に入ったオレは、すぐにガッカリする。
店の中は、外観と同じようにずいぶん古ぼけた感じ。
8畳ほどの広さしかない店内には誰も居らず、
パンを置くのであろう棚はガラガラで、
数種類のパンがほんのちょっとだけ置かれているだけ。
むしろ、パンの数よりも
備え付けの冷蔵庫に入った牛乳の数のほうが多いくらいで、
オレは、「ここは何屋だよ」などと思う。
棚に置かれた数種類のパンもヘンテコな名前のパンばかりで、
例えば、カットされてない状態の大きな食パンの塊は「ホテルパン」。
みみつきの食パンに、タマゴとハムとレタスが挟まれた
サンンドウィッチは「ホテルサンド」。
何が「ホテル」なんだかよくわからないのだけれど、
その店の棚にちょっとだけ並んだパンを見てオレは、
正直、あまり食べたいとは思わなかった。
店に誰もいないことだし、何も買わずに出てしまおうとオレが考える。
するとその時、店の奥から「いらっしゃいませ」と
おばあちゃんが出てきた。
髪の毛を三角巾で包み、赤いエプロンをしたおばあちゃん。
おばあちゃんは、「いらっしゃいませ」と言ったきり何も言わなくて、
何も言わずにオレの方を見ていて、オレは、正直困る。
本当なら何も買わずに店を出たいのだけれど
おばあちゃんに見られていては何も買わずに出るのも気が引けて、
オレは、ホテルサンドを1つ買って店を出た。
店を出て家に帰り、
たいして食べたいとも思わなかったホテルサンドを一口食べた時、
オレはブッ飛んだ。
なんだ、この美味さは。
美味しい。実に美味しい。
オレは、コンビニのパンに挟まれたタマゴは
ただ甘ったるいだけに感じて好きではないのだけれど、
このホテルサンドに挟まれたタマゴは、適度にしょっぱい。
そして、それと一緒に挟まれているぺらっぺらのハムが、
なんだか香ばしい。
そして何より、ソレを挟み込むパンがふわっふわで、しかも、甘い。
パンの微妙な甘さとタマゴとハムのしょっぱさが、
これ以上無いだろうというくらいに、マッチしている。
ただのサンドウィッチにこんなに感動した事があっただろうか。
オレは、ブッ飛んだ。
1つの食べ物が美味しいと他の食べ物も食べてみたくなるもので、
それからオレは、そのパン屋に通うようになった。
週に4日は通っている。
すっかり、そのパン屋に魅せられてしまった。
お気に入りは、「スパゲッティ」。
コッペパンにナポリタンが挟んである、
ただそれだけのパンなのだけれど、これが抜群に美味い。
学校の給食で食べていた、どこか薬臭いようなコッペパンではなくて
ほんのり甘味があってふわふわしたコッペパンに、
「アルデンテ」という言葉などはまるっきり眼中に無いような
とろんとろんのナポリタンが挟まっている。
それが抜群に美味い。
そして、「ベーコン」。
こちらはただ、フランスパンにカリカリのベーコンと
レタスとマスタードを挟んだだけのものなのだけれど、
そのフランスパンが外側がカリカリに固くて、
ヘタすりゃ歯茎に刺さるんじゃないかと思うくらいにカリカリで、
それでいて中身はふわっふわだ。
そして、フランスパン独特のしょっぱさの中に、どこか甘さを感じる。
そしてもちろん、「ホテルサンド」も忘れちゃいけない。
通うようになってわかった事なのだけれど、
そのパン屋は、昼前に行ったのではもう遅い。
もともとあまり多くは作らないのだろう、
昼前ではもう、残りのパンが少ししか無くなっている。
種類も無くなっていて、パンを選ぶ選択肢が無くなってしまう。
だからそのパン屋にパンを買いに行くのは10時頃がベスト。
そしてもう1つわかったことは、
そのパン屋は、老夫婦がやっているということ。
いつからやっているのかわからない。
でも、ずぅっとこの場所でパンを作り続けてきたのかなぁ、
そして、これからも2人でパンを作り続けていくのかなぁ、
そんな事を思うとオレは、なんだか嬉しくてニヤケてしまった。
オレが思うにきっと、この「ホテルサンド」にしろ
「スパゲッティ」にしろ「ベーコン」にしろ、
使われてる食パンやコッペパンやフランスパンから感じた
ほんのりとした甘さは、ただ、イースト菌とか塩分とか砂糖とか、
そういうものが合わさった結果だけで出るものではない。
そのレシピ、「+α」があって、オレらがソレを食べる時初めて、
ほんのりと甘く感じるのだ。
「+α」、それが何かといえば巧くは言えないのだけれど、
おじいちゃんとおばあちゃんが2人で作ってるということ。
そして、その2人がこの町にいてその店がこの町にあること。
そのパンから感じるほんのりした甘さの正体は、
きっと、そういう事なのだと思う。
おしいちゃんとおばあちゃんの歴史と未来、
そして、それを食べれる事の喜びが、パンの甘さの正体なのだ。
ある日、いつものようにそのパン屋に行った。
すると、いつもは見かけないパンが並んでいた。
「アンパンマン」
いろんなパン屋などでよく見かける、
子供向けのアンパンマンの顔をした、ありがちなパンだ。
オレは、「たまにはあんぱんもいいかもしれない」と思う。
ただオレは、“こしあん”は食べれるけど“つぶあん”は食べれない。
持病を抱えるオレは、繊維が豊富な“つぶあん”を食べると
一発で腹が痛くなる。
足繁く通ったおかげで少しおばあちゃんと喋るようになっていたオレは
そのアンパンマンに使われているあんが、
“こしあん”なのか“つぶあん”なのかを尋ねてみた。
するとおばあちゃんは答えた。
「そのアンパンマンはね、中にチョコが入ってるんですよ」
えっ、アンパンマンなのにチョコなの!?
「アンパンマンなのにチョコ」
家に帰ったオレは、なんて斬新なアンパンマンなのかと唸りつつ、
そのアンパンマンにかじりついた。
そのパンからは相変わらず、チョコの甘さだけではない
ほんのりとした甘さが口の中に広がった。
それがその店を初めて見た時の印象。
地元の小さな商店街からわき道に入ってちょっと行くと
住宅地の端っこのほうにその店はある。
ずいぶんと古ぼけた建物には
地元の催しや英会話学校のポスターが何枚か貼られていて、
2本だけ立てられた「手作りパン」と書かれた色褪せたのぼりだけが、
その店がパン屋だという事を物語る。
「こんな店、あったかな?」
その建物の古さやのぼりの色褪せ方を見れば
その店はずいぶん昔からそこにあるように思える。
オレは、生まれてすぐこの町に引っ越してきて以来33年間、
ずぅっとこの町で過ごしてきたのだけれど、
そこに、そんな店があったのかとはっきり意識したのは
その時が初めてだった。
なんとなくその店に惹かれたオレは午後1時をまわった頃、
ちょっとだけ勇気を出して、初めてそのパン屋に入ってみた。
パン屋に入ったオレは、すぐにガッカリする。
店の中は、外観と同じようにずいぶん古ぼけた感じ。
8畳ほどの広さしかない店内には誰も居らず、
パンを置くのであろう棚はガラガラで、
数種類のパンがほんのちょっとだけ置かれているだけ。
むしろ、パンの数よりも
備え付けの冷蔵庫に入った牛乳の数のほうが多いくらいで、
オレは、「ここは何屋だよ」などと思う。
棚に置かれた数種類のパンもヘンテコな名前のパンばかりで、
例えば、カットされてない状態の大きな食パンの塊は「ホテルパン」。
みみつきの食パンに、タマゴとハムとレタスが挟まれた
サンンドウィッチは「ホテルサンド」。
何が「ホテル」なんだかよくわからないのだけれど、
その店の棚にちょっとだけ並んだパンを見てオレは、
正直、あまり食べたいとは思わなかった。
店に誰もいないことだし、何も買わずに出てしまおうとオレが考える。
するとその時、店の奥から「いらっしゃいませ」と
おばあちゃんが出てきた。
髪の毛を三角巾で包み、赤いエプロンをしたおばあちゃん。
おばあちゃんは、「いらっしゃいませ」と言ったきり何も言わなくて、
何も言わずにオレの方を見ていて、オレは、正直困る。
本当なら何も買わずに店を出たいのだけれど
おばあちゃんに見られていては何も買わずに出るのも気が引けて、
オレは、ホテルサンドを1つ買って店を出た。
店を出て家に帰り、
たいして食べたいとも思わなかったホテルサンドを一口食べた時、
オレはブッ飛んだ。
なんだ、この美味さは。
美味しい。実に美味しい。
オレは、コンビニのパンに挟まれたタマゴは
ただ甘ったるいだけに感じて好きではないのだけれど、
このホテルサンドに挟まれたタマゴは、適度にしょっぱい。
そして、それと一緒に挟まれているぺらっぺらのハムが、
なんだか香ばしい。
そして何より、ソレを挟み込むパンがふわっふわで、しかも、甘い。
パンの微妙な甘さとタマゴとハムのしょっぱさが、
これ以上無いだろうというくらいに、マッチしている。
ただのサンドウィッチにこんなに感動した事があっただろうか。
オレは、ブッ飛んだ。
1つの食べ物が美味しいと他の食べ物も食べてみたくなるもので、
それからオレは、そのパン屋に通うようになった。
週に4日は通っている。
すっかり、そのパン屋に魅せられてしまった。
お気に入りは、「スパゲッティ」。
コッペパンにナポリタンが挟んである、
ただそれだけのパンなのだけれど、これが抜群に美味い。
学校の給食で食べていた、どこか薬臭いようなコッペパンではなくて
ほんのり甘味があってふわふわしたコッペパンに、
「アルデンテ」という言葉などはまるっきり眼中に無いような
とろんとろんのナポリタンが挟まっている。
それが抜群に美味い。
そして、「ベーコン」。
こちらはただ、フランスパンにカリカリのベーコンと
レタスとマスタードを挟んだだけのものなのだけれど、
そのフランスパンが外側がカリカリに固くて、
ヘタすりゃ歯茎に刺さるんじゃないかと思うくらいにカリカリで、
それでいて中身はふわっふわだ。
そして、フランスパン独特のしょっぱさの中に、どこか甘さを感じる。
そしてもちろん、「ホテルサンド」も忘れちゃいけない。
通うようになってわかった事なのだけれど、
そのパン屋は、昼前に行ったのではもう遅い。
もともとあまり多くは作らないのだろう、
昼前ではもう、残りのパンが少ししか無くなっている。
種類も無くなっていて、パンを選ぶ選択肢が無くなってしまう。
だからそのパン屋にパンを買いに行くのは10時頃がベスト。
そしてもう1つわかったことは、
そのパン屋は、老夫婦がやっているということ。
いつからやっているのかわからない。
でも、ずぅっとこの場所でパンを作り続けてきたのかなぁ、
そして、これからも2人でパンを作り続けていくのかなぁ、
そんな事を思うとオレは、なんだか嬉しくてニヤケてしまった。
オレが思うにきっと、この「ホテルサンド」にしろ
「スパゲッティ」にしろ「ベーコン」にしろ、
使われてる食パンやコッペパンやフランスパンから感じた
ほんのりとした甘さは、ただ、イースト菌とか塩分とか砂糖とか、
そういうものが合わさった結果だけで出るものではない。
そのレシピ、「+α」があって、オレらがソレを食べる時初めて、
ほんのりと甘く感じるのだ。
「+α」、それが何かといえば巧くは言えないのだけれど、
おじいちゃんとおばあちゃんが2人で作ってるということ。
そして、その2人がこの町にいてその店がこの町にあること。
そのパンから感じるほんのりした甘さの正体は、
きっと、そういう事なのだと思う。
おしいちゃんとおばあちゃんの歴史と未来、
そして、それを食べれる事の喜びが、パンの甘さの正体なのだ。
ある日、いつものようにそのパン屋に行った。
すると、いつもは見かけないパンが並んでいた。
「アンパンマン」
いろんなパン屋などでよく見かける、
子供向けのアンパンマンの顔をした、ありがちなパンだ。
オレは、「たまにはあんぱんもいいかもしれない」と思う。
ただオレは、“こしあん”は食べれるけど“つぶあん”は食べれない。
持病を抱えるオレは、繊維が豊富な“つぶあん”を食べると
一発で腹が痛くなる。
足繁く通ったおかげで少しおばあちゃんと喋るようになっていたオレは
そのアンパンマンに使われているあんが、
“こしあん”なのか“つぶあん”なのかを尋ねてみた。
するとおばあちゃんは答えた。
「そのアンパンマンはね、中にチョコが入ってるんですよ」
えっ、アンパンマンなのにチョコなの!?
「アンパンマンなのにチョコ」
家に帰ったオレは、なんて斬新なアンパンマンなのかと唸りつつ、
そのアンパンマンにかじりついた。
そのパンからは相変わらず、チョコの甘さだけではない
ほんのりとした甘さが口の中に広がった。
コメント
でも大阪だったら絶対突っ込まれるよ(´・ω・`)
(大阪の場合)店主も期待してると思うしw
あっお久しぶりです(*´▽`*)
今度私が福島に行った時は連れていってください!
朝10時に!
ええなぁ、おじいちゃんおばぁちゃんのパン、
私も食べたい。ええなぁ。
なんかすごく温かい、すてきなお店ですね。
福島に行ったら絶対行きたい・・・
そういえば僕東北に一回も行ったことないんですよね〜。
九州からだと一番行かないところかも><
あたしもコンビニのサンドイッチのマヨをバリバリに効かせた風味が苦手なのでほとんど食べません
ゲルさんの温かい話の日記は不思議と8割がた涙が出てしまいます
胸が熱くなるってこういうことなんだろなぁ
ホントに素敵なパン屋さんですね〜!!私も、そのパン食べてみたいデス♪これからも、おじいちゃんとおばあちゃんに、ずーっと、ずーっと美味しいパンを作りつづけてもらいたいですね〜☆
今日の日記読んで、なんだかとっても気持ちがあったかくなりました(*^▽^*)
ボク今まで生きてきてまだそんな感じのお店に出逢ったことがないんですよ。今度暇があったら『見つけ方』みたいなのをゲルタさんに教わりたいですw
あ〜、大阪ならつっこまれるんでしょうねー。
実際オレもツッコミ入れたかったですもん(笑
●dai様。
お久しぶりです!!
もう、最後の「アンパンマンなのにチョコ」というのを
書きたくて、うっかり長文になってしまいましたよー。
●関西人様。
なんか、老夫婦とかがやってるお店って、
情がわくってワケじゃないですけど、
つい、思い入れができてしまいますよねー。
美味かったら尚更ですよねー。
●ドンちゃん様。
ありがとうございます!!
そう思っていただけたら長々と書いた甲斐がありましたー。
東北、まだ未上陸ですか!!
オレも九州に行ったことないです。
お互いに、まるっきり反対側ですもんね(笑
●ベルッチ様。
もちろん!!
ベルッチ様のご希望であれば、どこへでもお連れいたします!!
もちろん10時に!!
ベルッチ様、すごい大変になると思いますよー(笑
●真夜中のナイチンゲール様。
フランスパン、美味いですよねー。
オレもフランスパン、好きなんですよー。
ベーコン、すっごい美味しいですよ!!
おおお、薄皮まんじゅう!!
そそ、アレはこしあんです。
蒸かしたばかりの薄皮まんじゅうが美味いんですよー。
●りぃ様。
ありがとうございます!!
そう仰っていただけるともう、すっごい嬉しいです!!
食べ物を美味しそうに表現できたらなー、
なんて思いながら書いたのですけど、
そしたらついつい長文になってしまいました。
●ゆき様。
ゆき様、こんばんは!!
そそ、ホント、いつまでもおじいさんおばあさんに
パンを作り続けてほしいです。
いつまでも、食べていたいです。
明日も行こうかなぁ(笑
●ゆっきー様。
そそ、まさに隠れた名店!!
やー、オレもたまたま入った店が美味しかったんですよ。
すっげぇラッキー!!みたいな感じでう。
やっぱ、気になったらどんどん入るといいのですかねー。
私もよく、和菓子やさんと仲良くなります。
そういう交流っていいですよね☆
私もそのお店いきたいな♪
はい、いい発見でしたよー。
もう、毎日のように通ってます。
美味しいお店なので、福島にいらっしゃった時は是非!!