「オレがスウィングガールズを観るのは、
 トロンボーン関口さんを観たいが為だ」
そんな事を言ったら、友人に、
「君は歪んでるね」と言われてしまいました。

こんにちは。
ちょっとエッチなお兄さんです。
 
 
 
 
 
 
 
 
まぁ、それはソレとして。
 
 
 
 
 
 
 
 
幽霊。お化け。
アナタは、そういった類のモノを見た事があるだろうか。

オレは正直、わからない。
 
いや、オレが「わからない」と言うのは
オレは、自分が見たモノを幽霊ともお化けとも断定する能力が
自分には無いのを知っているからであって、
この世に幽霊やお化けといったものが本当に存在するというのなら、
もしかするとオレが見たのは本当に
幽霊やお化けのような存在だったのかもしれない。
しかしオレは、幽霊やお化けを見極める能力が無いので、
自分が見たモノを誰かに伝える時、必ずこう表現する。

「不思議なモノを見た」
 
そして、こう付け足すのだ。

「とても恐ろしかった」
 
ソレは確か、オレが20歳頃の時、
とある病院に入院していた時の話で、
オレが、実際に経験した話である。
 
 
 
 

 
その時オレは、腹に抱える持病のために入院していた。
2ヶ月近く続く絶食生活。
そんな絶食生活真っ只中にあるオレの唯一の栄養源は高濃度の点滴で、
オレは、首に刺した針の先にある点滴がぶら下がっている点滴台を、
まるで飼い犬のようにどこに行くのにもガラガラと連れて歩いていた。

点滴をしていて困る事は、点滴台を連れて歩くのが面倒な事と、
尿意が近くなる事である。

オレに刺さっている点滴は、
24時間休み無しでオレの体内に流れ込んでいたから、
自然、尿が頻繁に出るようになる。
しかもソレは、日中であろうが夜中であろうが、
オレの生活リズムなどお構い無しに、である。
オレは、よく夜中に尿意に目覚めては、
点滴台をガラガラと引き連れて、病院内の暗い廊下をヒタヒタと歩き、
トイレまで歩いたものである。
 
その夜もそうだった。
オレは、夜中に尿意に目覚めた。
目覚めはしたのだけれど、トイレまで点滴台を連れて行くのが
なんだか面倒で、オレは、尿意をもよおしている自分を誤魔化して、
再び眠ろうと目を瞑った。
しかし、もしここで尿を我慢して明日の朝、
オネショでもしたらヤバイんじゃないかと思い、
点滴を恨みながらトイレに立った。
時計を見た。
午前2時30分頃だった。
 
 
 
 
 
オレが入っている4人部屋は、内科病棟のいちばん端っこにあった。
絶食2ヶ月といってもオレはワリと元気であったから、
オレは、ナースステーションやトイレまで
遠く離れた部屋に入れられてしまったのである。
トイレに行く度に、それを歩くのが面倒でイヤだった。

部屋を出て右側はすぐ非常口で、左側に廊下は続いている。
その廊下をずぅっと歩いて行くと十字路があって、
左に曲がると、内科病棟から外科病棟に繋がる連絡通路。
右に曲がると手前側にエレベーターが、
そしてその隣にすぐ、階段がある。
十字路を曲がらないで真っ直ぐ行くと、右側にトイレがあって、
丁度、トイレとエレベーターは廊下を挟んで向かいにあることになる。
その先を真っ直ぐ行くとナースステーションがあり、
更に真っ直ぐ行くと女性患者が入院する病室がある。

オレは、その薄暗い廊下をトイレに向かって歩いた。
深夜の病院。
入院している患者もあまり多くないから忙しくないのか、
看護婦さんが動く音も全然聞こえない。
聞こえるのは自分の足音と点滴台のガラガラという音だけで、
その音は、そこに存在しているのが
まるで自分だけのような感覚に陥らせ、
オレは、早く用をたしてベッドに戻りたいと先を急いだ。
 
 
 
 
 
十字路に立つ。
深夜ということもあり、エレベーターも動いておらず、
階段を上り下りしてる足音も聞こえない。
左側に伸びる連絡通路を歩いてる人は誰もおらず、
十字路の正面の廊下を歩いている人も誰もいなかった。
その時間、そこにいたのは確実にオレだけ。
オレは、十字路のちょっと先にあるトイレに入った。
そして用をたす。
用をたし終え手を洗ってまた、
帰り道の十字路に差し掛かるまでの時間は
おそらく、1分もかからないはずであった。
用をたし終えたオレは、早くベッドに戻ろうと帰り道を急ぐ。
ナースステーションの先には人影は見えず、
また、エレベーターの動く音も階段を上り下りする足音も
連絡通路を歩く足音も聞こえなかった。
静寂。
その静寂の中、オレのヒタヒタというスリッパの音と
ガラガラという点滴台の音だけが響く。
オレは、それが気持ち悪くて早くベッドに入りたいと願った。

そして、帰り道の十字路に差し掛かった時。

ふと、左後ろに何かを感じた。

ソレが何かはハッキリとは言えないのだけれど、
何か人の気配というか、
誰かに見られてるというか、
オレは、そんな感じに襲われた。

オレの足が止まる。

頭では、早くベッドに入りたいと願っているはずなのに、
オレの足は自然と止まってしまった。

一瞬にして、あたりはまた静寂が支配する。
その静寂は、オレが今まで経験したことの無いような静寂。
本当に、なんの音もしない。
自分の呼吸音さえも聞こえない。

オレは、直感的に自分の左後ろ、
丁度、エレベーターの向かい側の壁のところに何かあると感じた。

振り向いてはいけないような気がした。

でも、オレは、振り向いてしまった。

すると、そこに、いた。
 
 
 
 
 
老婆だった。
廊下の天井からぶら下がった非常口のありかを示す電灯の下に、
老婆が、しゃがんでオレの方を見ていた。
今でもはっきり覚えている。
髪の毛は真っ白で、おかっぱを少し長くしたような感じ。
皮膚の色はなんというか、土色というか、
そんな、生気の無い色をしていた。
恐ろしくガリガリに痩せていて、シワシワで、
丁度、『AKIRA』に登場する
ラボの子供達を思わせるような不気味さだった。
何より不気味だったのは、その老婆が、
身体のサイズとはまるで合っていない、
ダボダボの赤いチェック柄のパジャマを着ていたこと。
胸元はダラリ開いていて、くっきり浮き出た鎖骨が見えた気がする。

ほんの1分前にそこを通った時は、そこには誰もいなかった。
確実に。
絶対に。
階段にもエレベータにも連絡通路にも
ナースステーションの先の廊下にも、
そこには誰もいなかった。
オレがトイレに入ってる間
階段を上り下りする足音も全く聞こえなかったし、
廊下を歩く足音も聞こえなかった。
あれだけの静寂の中、誰かが歩けば
例え静かに歩いたとしてもその足音は響くものである。
しかし、誰の足音もしなかった。
もちろん、エレベーターも動いておらず、
音といえば自分の足音と点滴台の音だけ。

それなのに、突然そこに、現れた。
 
赤いパジャマの老婆は、
しゃがんで、土色をした顔で、こっちを見ていた。

目が合った。

何か知らないけれど、口をまぁるく開けていた。

オレは、動けなくなった。
“足がすくむ”という感覚はこういうものかと思った。
果たしてソレが何秒の間だったかは知らないけれど、
オレは、足を動かすという事を忘れていたような気がする。
 
 
 
 
 
足が動いたのは、数秒後のことであった。

オレは老婆から目を逸らすと、走った。

点滴台が邪魔で上手く走れないのだけれど、
それでも走った。
点滴台はガラガラとオレの後を着いてくるのだけれど、
それがまどろっこくて仕方なかった。
オレはその時ほど、点滴台が邪魔だと思った事は無かった。
イライラして、グイと点滴台を引っ張った。
点滴台は、ガシャンと派手な音を立てて倒れた。
すると、点滴とオレの首を繋いでいる点滴の細い管の中を、
オレの血がゆっくりと逆流していくのが見えた。
点滴の管がオレの血で赤く染まっていった。
オレは慌てて点滴台を引き起こそうとする。
その時また、さっき老婆が座っていた方を見てしまった。

するとまだ、座っていた。

口をまぁるく開けていた。

オレは点滴台を引き起こすと、
また走って病室に入り、ベッドに潜り込んだ。

その夜は、朝まで一睡もできなかった。
 
 
 
 
 
次の朝は、身体がだるくて仕方なかった。
8時ごろに運ばれてきた朝食にも手をつける気にならなかった。
朝食の時に一緒に巡回に来た若い看護婦さんが、
「元気ないね」とオレに話し掛けてくる。
オレは、なるべく明るく言った。
 
 
 
「昨日の夜中さ、トイレに行った帰りに
 おばあちゃんがエレベーターの前に座ってて
 オレ、すっげぇビックリしたんだよー」
 
 
 
すると若い看護婦さんは、怪訝そうな表情を浮かべて、言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「今はおばあちゃんなんて入院してないよ?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
それからしばらくの間、オレは、
深夜に尿意をもよおした時は、尿瓶を使うようになった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

コメント

you-he
2006年8月6日12:21

ひぃああああああ。
大友克洋の描く老人の妙な不気味さが具体的に伝わるので
かなりゾっとしました><

オッサン
グレムリン斉藤
2006年8月6日13:47

こ、こ、こえー! 背筋がぞくっとしましたよ! 入院たいへんでしたな。退院、おめでとうございます!

ボブ
ボブ
2006年8月6日15:56

おお、実は先日のエントリーで入院経験豊富なゲルタさんに病院での恐怖体験を聞きたいとレスしようとしたんだけど、ちょい厚かましいなって思って止めたんですよ。
偶然とはいえ思わぬ形で恐怖体験が聞けてラッキー。

しかし1回でいいから幽霊ってもんにあって見たい。
案外、気付いてないだけどあってるのかもしれないけどね。

関西人
2006年8月6日16:12

こーわぁーっ。
病院怖い。病院怖い。
やっぱり夜勤のある病院で働くのやめようかなぁ、、。
まぁるいクチが怖いよ〜。

で、まだ痛い?

nophoto
真夜中のナイチンゲール
2006年8月6日17:02

退院、おめでとうですが・・痛そうで,それにもめげず,夏の怪談話、にながわ・じゅんじ?(でしたっけ)張りの、お話し、暑い夏にはぴったりでした〜
いつも思うのですが、短いオムニバスの映画を見てるようで、すごい、表現力。。感心してしまいます。
いつか、本を書いたらベストセラーになるかも。。期待してます 
ちなみに。。私は看護士じゃありませんが・・まだまだ暑いですから、体に気をつけて 

ベルッチ
ベルッチ
2006年8月6日19:11

おぉ!見てしまいましたかー!
私も会社のトイレで変なものをみました。
個室の天井に影みたいなものがいて、私が座った途端スッと消えたのです。
が、そんな実態が掴めないものなのに「あ、双子だ」と感じたのですよねぇ。
双子がトイレにいたのですー。不思議な話しでした。

病院は色々ありそうなので、ちょっと驚かされそうですね。。

ポピー
ポピー
2006年8月6日23:11

初めまして、ポピーです。数日前から読ませていただいてます。(あしあとでバレバレですね^^;)
先日のシャバダバしそこなった件といい、今日の怪談話といい、ゲルタ様の日記に釘付けで、思わずお気に入りに登録させていただきました。
体調はいかがですか?無理なさらないように・・

たまへい
たまへい
2006年8月6日23:37

まじっすか。
いやだ怖くてもう帰れなくなっちゃう。僕だったら。
なに夏の夜にそんな話かいてんのよう。いぢわる〜
あああ夢みちゃうかもぉぉぉ...

魔美
魔美
2006年8月7日13:18

キヨコはおさげだったけど、おかっぱ頭の老婆というのも非現実的ですごく怖いです。。
深夜の病院って本当に怖いですよね(泣。

ゲルタ
ゲルタ改
2006年8月8日8:50

●you-he様。

ホントあんな感じなんですよ、ラボの子供みたいな。
なんか水分がないような。
めちゃくちゃ恐かったです。
 
 
 
●グレムリン斉藤様。

ありがとうございます!!
無事に退院してきましたー。
もう、無事すぎてあっけなくて、なんだか拍子抜けな感じです。

オレ、この話を書いてからというもの
鮮明にそのことを思い出してしまって
今、書いたことをすごく後悔してます。
 
 
 
●ボブ様。

そそそそ!!
ですよねー。
オレもボブ様と同じ考えなんですよ。
案外、幽霊って気づいてないだけで
実は結構会ってるんじゃないか、って。
本当にそうだったら、知らないままでいたい気がします。
 
 
 
●関西人様。

オレの友達もやっぱ、夜勤恐いって言ってました。
慣れるのかなーって思ってたけど、
やっぱ恐いものは恐いですよねぇ。

や、ありがとうございます!!
傷はもう、全然痛くないですー。
 
 
 
●真夜中のナイチンゲール様。

ありがとうございます!!
無事退院しましたー。
お見舞いのお言葉をありがとうございます!!
てか、こんな気持ち悪い話を書いてしまってすみません!!

やー、ベストセラーだなんてとんでもないです!!
でも、何か物語りみたいなのは書きたいなーって思っています。
 
 
 
●ベルッチ様。

そそ、なんか知らないけど、
ベルッチ様が「双子だ」って感じられたように
直感的に理解することってありますよね。
ちうか、双子が恐ぇ〜。
映画シャイニングにちょっとだけ出てくる
双子の映像を思い出してしまいます。
もういう双子って、なんか不気味ですよね。
 
 
 
●ポピー様。

はじめまして、ゲルタです!!
わざわざご挨拶をくださってありがとうございます!!
しかもあたたかいお言葉まで!!
いつもくだらないことばかり書いてるのですが、
どうぞよろしくお願いします!!
 
 
 
●たまへい様。

や、すみません!!
ついうっかり、「夏だし、いっちょ書いちゃうか」とか思って
こんな話を書いてしまいました。
自分、こんなの書いてしまったせいでその時を思い出して
夜のトイレが恐くて仕方ないです。
 
 
 
●魔美様。

もう、めっちゃくちゃ恐かったですよ。
思い出した今でも恐いです。
なんか、タカシをおかっぱにしたみたいな、
そんな感じなんですよ。それが座ってんの。キャァァァァ!!
深夜の病院、ほんと恐いですよね。

nophoto
xYUKIx
2006年8月8日9:37

鳥肌もんですね、これ…
体感温度が5度くらい一気に下がった感じです…

ゲルタ
ゲルタ改
2006年8月8日9:54

●xYUKIx様。

や、あの時はもう、めちゃめちゃ恐かったですよー。
なんか、日記に書いたらすっかりハッキリ思い出してしまって、
夜のトイレが恐くなってしまいました。
書かなきゃよかったです(笑

nophoto
マルクル
2006年8月14日8:36

遅くなってすいませんっ。
ゲル兄さんのお悩みをすぱっと解決します。
……それはまさにあれ。ゆーれー。
でも、そんなに悪質ではないと思われ。
ゲル兄さんから直に話を聞けば色々わかるのですが、そのお婆さんは今後のゲル兄さんの体調の事を言ったんだと思います。お体にお気をつけて。

あ、最近あちーですね。

ゲルタ
ゲルタ改
2006年8月14日20:00

●マルクル様。

おおお、ありがとうございます!!
やっぱし幽霊ですか!!
でも、あんまり悪い幽霊じゃないんですかー。よかった!!
しかし、悪い幽霊じゃなくてもやっぱしなんだか恐いですよね。

ありがとうございます。
身体には気をつけます!!

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