先日の24時間テレビ、
各県の最後のフィナーレが次々と映されるなか、
オレは、画面の中に見覚えのあるような顔を見つけた。
小太りで、色がやたら白くて、メガネをかけていて、
その男が身体を揺らし、サライを歌っている。
その時オレは、ソイツが誰だったのかハッキリ思い出せなかった。
「あれ?ミキオか?」
そう思い出したのは次の日になってからで、
オレは、「こいつ、まだこういうのやってんのか?」と思った。
ミキオ。
オレが高校3年の時の、JRC部、部長。
高校3年生になってすぐ、オレは仲間と一緒にJRC部に入った。
1年の時は山岳部(すぐに退部)、
2年の時は硬式テニス部(すぐに自主退部)と、
部活動が全然続けられなかったオレなのだが、
ウチの学校では必ず、年度のアタマにはどこか、
部活に所属していなければならないというルールがあって、
オレは、仲間たちと一緒にJRC部に入った。
JRC部というのは、よく知らないけれども
なんでも、使用済み切手やベルマークを集めたりだとか
献血だとかボランティアだとか、そういった活動をする部活。
とても素晴らしい活動をする部活。
そんな素晴らしい部活なのだが、
ただ、残念なことにウチの学校のJRC部は、
“どの部活にも入るところがない”
“どの部活にも入れてもらえない”
そういったヤツらが、最終的に流れ着いてくる部活になっていた。
JRC部の活動初日、部長を決める日に、
JRC部が部室代わりに使っていた教室は、
そういうヤツらで溢れかえり、オレもその中にいて、
そしてその中には一際白い顔をした坊主頭で、
クソがつくほど真面目そうな1年生もいた。
ソレがミキオだ。
きっとミキオは高校に入ってボランティアなどの活動をしようと
志高く部活に入ったのだろう。
しかし現実は酷いモノで、
ミキオと志を同じくする者は3、4人程度で、
残りの者はみんな、ただただ、そこに流れ着いた者ばかりであった。
部長を決めるその日、ミキオはオレの前の席に座っていた。
背中を丸めて、後ろを拒絶している感じ。
教室では、顧問が新部長を決める旨を説明していて、
その言葉に、バカなヤツらが
「オレが部長やる!!」とか「オレにやらせろ!!」とか騒いでいる。
そんな中、オレはミキオに話し掛けた。
「オマエ、1年だろ?」
ミキオはビクビクしながら振り返り、「はい」と答える。
「オマエはどうして、こんな部活に入ったの?」
するとミキオは、今にも泣き出しそうな声で答える。
「すみません、ボランティアとかやってみたいと思ったから・・・」
オレは、「へぇ〜」と思った。
今でこそ、ボランティア活動をする人は多くなったと思うのだが、
その時はまだ、ボランティア活動などというと、
まだちょっと珍しい感じがした。
その中にあって、ミキオは「ボランティアがしたい」と言う。
オレはちょっと、「スゲェな」と思った。
だからオレは、ミキオに言った。
「オメーを部長にしてやるよ」
JRC部の部長を決める方法は簡単、多数決だった。
きっと、世の中で一番わかりやすい民主主義。
まず始めに、部長に立候補するヤツを求める。
すると、ボランティアに興味などこれっぽっちもないバカなヤツが
「オレオレ!!」と手を挙げる。
そんな中、オレは強引にミキオに手を挙げさせる。
ミキオの立候補に、ナゼか笑いが起きた。
ミキオは恥ずかしそうに俯いていて、その姿がまた、笑いを誘った。
多数決になる。
候補者は3人で、バカが2人と、ミキオ。
その3人が教室の前の方に並ぶ。
その多数決、
オレは、仲間と一緒にある作戦に出た。
部長を決める多数決において、必ずミキオを部長にする作戦。
方法は簡単だ。
ミキオ以外に手を挙げそうなヤツのところに行って、こう言うのだ。
「オマエ、ミキオに手を挙げなかったらブッ殺すぞ?」
民主主義というのは難しいものだ。
そしてミキオは、1年生ながらJRC部の部長になった。
仲間の1人が「オマエの好きにやれば?」と言ったとおり、
ミキオが部長になると、
今までなんの活動もなかった名前だけのJRC部は、
少しずつ変化していって、
放課後、学校周辺の清掃などを少しずつやるようになっていた。
いや、JRC部が変化したと言っても実際に清掃をしてるのは
ミキオを含めた数人程度で、ただ、行く所がないから
JRC部に入部したヤツらは、すぐにJRC部から姿を消していた。
もちろん、オレもその1人で、
オレは、登下校用に使っていた原チャリに乗って、
清掃をしているミキオの横を「頑張れよ〜」などと言って
帰っていったものだった。
そんなある日、1年生のミキオが、
3年生のオレたちの教室にやってきた。
「あの、すみません、部費を払ってもらえますか?」
部費の徴収。
たった300円なのだけれど、高校生の300円は
とても大きな金額だから、オレは出し渋った。
「悪い、今は金が無いから今度」
その後もミキオはビクビクしながらオレたちの教室いやってきて、
ビクビクしながら300円を集めにきたのだけれど、
そのたびにオレは、ソレを誤魔化した。
そんなことをしていると、
いつの間にかオレは、JRC部をクビになっていた。
いや、オレどころか、
オレの仲間も他のバカもみんな、クビになってしまっていた。
そしてオレとミキオの接点は、まるで無くなってしまった。
その後のJRC部のことは、まったく知らない。
JRC部がどんな活動をしたのか、
ミキオがどんな活動をしていたのか、
オレは、まるで興味がなくなってしまった。
オレらの卒業アルバムのJRC部の写真には
当然オレらの姿は無く、
そこに写ってるのは、同じJRC部でありながら
見た事もないようなヤツが2人、写ってるだけだった。
そしてアレから十数年経った今、
「そんなモノ観ても、いい事はいっこも無い」と、
そう思っていた24時間テレビにミキオらしき姿を見つけたのは、
そして、ミキオらしき人物が
そういう活動をまだ続けていたことは、なんだかちょっと嬉しかった。
コメント
そういう志の高い人にすぐ気がついて、そういう手はずを整えるあたり、さすがゲルタさんだなぁって思いました。
きっとゲルタさんの存在が24時間テレビに出ることのきっかけの一つになってたんでしょうね☆
ども!!お久しぶりです!!
やー、もう、オレらが彼を部長にしたのは、
面白半分なところもあったんですけどねー。
しかし、恩を仇で返されてしまいました(笑