極悪と言われる人の何をもって極悪足るかと考えた時、
その要素の1つには、
「目的を達成する為にはどんな手段をも厭わない」
という事が挙げられると思う。
その点で考えれば、ヤツは完璧に極悪。
まるで心を持たぬマシーンのように目的を遂行しようとし、
まるで温度を感じさせぬ爬虫類のような眼をしてソレに臨む。
キシリア。
我が姉の事ながら、その弟はハッキリと断言する。
キシリア姉さん、ヤツは極悪。
鬼だ。悪魔だ。
いや、ヤツを悪魔と言ったら悪魔に悪いので悪魔に謝ろう。
ゴメンな、悪魔。
そのくらいにヤツは悪。
オレは、いまだかつてあんな極悪な女に出会った事がない。
血を分けた姉と弟なのに、ヤツは、
目的の為にはその弟さえもその手にかけようとするのだ。
今朝のことだ。
目覚めたオレは猛烈な尿意を感じてトイレに向かった。
夜中に起きた時、喉に乾きを覚えて水を飲んだのが悪いのか、
目覚めた瞬間に猛烈な尿意を感じた。
いや、その尿意によって目が覚めたといってもいいのかもしれない。
オレは、階段を下りてトイレに向かう。
そして、オレがトイレのドアに手をかけた瞬間、
背後からオレを呼ぶ声がした。
「ゲルタ!!」
振り返らずとも声でわかる。
ソレは、昨日の晩からウチに泊まっていたキシリア姉さんの声。
姉さんは「ちょっとストップ、ちょっとストップ」と、
オレに向かってそう言いながら近づいてきて、
ドアノブにかけたオレのその手をグワシと掴み、
さらに、オレに向かってこう言った。
「アンタ、大?小?」
ジョッキの大きさじゃぁない。
トイレでこれからいたすであろう、用の話。
早い話がウンコかオシッコか。
オレは、自分の身の内に感じるソレを「小だよ」と言う。
すると姉は、なんら臆することなく、言った。
「だったらアタシの方が先だ」
???
意味がわからん。
どうしてオレが「小」だと姉が先になるのか。
聞けば、姉はここんとこずっと便秘だったそうなのだ。
それがその時、しばらくぶりに“出る”好感触を得たのだそうだ。
「頼む!!アタシを先にして!!
もう出そうなんだ!!」
ふざけんな、と。
どうしてオレが、トイレの順番を譲らなければイカンのか、と。
オレの方が1歩先にトイレまで辿り付いたのだ。
オレの方が1歩先にドアノブに手をかけたのだ。
姉に久々の、
そして発射寸前の便意が襲ってこようがオレには関係ない。
可哀相な話かもしれないが、人間は、
まだ猿だった時代からそうやって生きてきた。
力のある者が相手を屠り、
そして、神に祝福されし者が運を掴んで生き延びる。
トイレの順番だって同じこと。
先にトイレに辿りついたオレに運があり、力があるのだ。
オレより出遅れた姉には1歩だけ、
ほんの1歩ぶんだけ、運がなかったのだ。
己の運のなさを、呪うがいい。
そして、オレは言うのだ。
「力無き者は去れ!!」と。
しかし、姉は言う。
「アンタ、男なんだから、
外でチョロチョロッとやってこればいいでしょ!!」
アホか。
何でこのオレが外でオシッコせにゃぁならんのか。
猫ちゃんだってトイレにオシッコをするこの御時世、
どうして人間であるオレが、外でやらなきゃならんのだ。
しかもアレだ。
チョロチョロじゃねぇ。
オレの尿意はハンパなく、「チョロチョロ」だなんて、
そんな弱々しい言葉で表現できる程のモノではないのだ。
言うならば「ジョンジョロ」だ。
オレの尿意は「チョロチョロ」じゃなくて「ジョンジョロ」、
力強く「ジョンジョロジョロジョロ」なのだ。
だが、姉は言う。
「アタシは“大”だからトイレじゃないとダメなの。
順番変って!!すぐに終るから!!」
仮に、だ。
仮に、オレと姉のトイレの順番を変ったとする。
姉が先にトイレに入って“大”をし、
その後、オレが入って“小”をする。
するとどうだろう。
姉はきっと、スッキリとした顔でトイレから出てくるだろうが、
後から入るオレはきっと地獄の苦しみを味わうことに、
いや、地獄の苦しみをその鼻から嗅ぐことになる。
しかもソレは、便秘気味だったお久しぶりねのソレ。
考えるだけで恐ろしい。
尚更に順番を変るワケにはいかない。
姉の顔はみるみる歪む。
「ああ〜、出るっ!!」
出ろ。
「いいのか?漏れるぞっ!!」
構いやしねぇ、漏らせ。
すると姉は、
「もう出そうだから!!生まれかけだから!!」と言った。
そんな姉に、オレは、
「だったら諦めて、パンツの中にしちまいな」と言った。
と、その時だった。
一瞬、姉の目が暗くなったような気がした。
鈍くさえも輝かず、一瞬、全ての色を映さないような
ただの無機質の塊になったような気がした。
そして。
パシィッ
ビンタ。
姉、オレの顔にビンタ。
驚きのあまり、反撃など忘れてしまう。
ただ、その瞬間におきた出来事を理解するのがやっとだった。
ビンタをされたオレは、少しの間、目の前が白くなった。
きっと、的確な位置に入ったのだろう。
オレは、一瞬にして自分の膝から力が抜けるのを感じる。
その感覚、
膝から力が抜けていく感覚は昔、空手をやっていた時の、
上顎の横に相手の突きが入った時の感覚によく似ていた。
一瞬、目の前が白くなり、膝に力が入らなくなる。
そうすると、膝からグニャリと倒れてしまうのだ。
膝から崩れ落ちたオレに、姉は容赦ない。
姉は崩れ落ちたオレに、もう一発ビンタをくらわした。
もう1発ビンタをくらったオレは、
自分の呼吸がおかしいことを理解する。
瞬間、呼吸が苦しい。
鼻で息ができず、口を開いて金魚のようにパクパクせざるを得ない。
そして、鼻の奥に広がる鉄の匂い。
オレの鼻から、鼻血が噴出したのだ。
更に。
更に、だ。
次の瞬間、
きっと、驚いて目を見開いていたであろう
オレの眼に飛び込んできたのは、
先ほどビンタした手を今度は握り、
そして更に、その中指の第二関節だけを突き出すように
拳を固めた姉の姿だった。
姉は、その拳をシュッと、
オレに向かってシュッと突き出してきた。
うおおおおおおっ!!
眼を狙ってきたぁぁぁぁぁっ!!
カラスかっ!!
オメェはカラスか!!
もしくはミザリーかっ!!
恐ぇっつーの!!
オメェ、オレが素早い反応を示したからヨカッタものの、
ソレ、一歩間違ったら大事件じゃねぇか!!
元・地域を代表する不良娘だった姉の、恐怖の連係攻撃。
オレは一瞬にして理解する。
「コイツは本物だ!!
コイツは本物の悪だっ!!」
オレは、慌てて逃げる。
もはや負け犬と化したオレに姉は一言、
「悪ぃな」
そう言って、トイレに入っていった。
そんな姉を横目に、オレは、
悔し涙と鼻血を流しながらオシッコをしに家の外に出たのだった。
全ては早朝、
僅かの時間に、我が家にあった出来事である。
バイオレンス。
ちうか、
トイレの順番ごときで流血するって、
ウチは一体、どんな家庭なんだよ。
コメント
私は、どちらかと言うと手段のために目的を探す性質かな?
鈍いんですが、よくキレてます(笑)
私の日常には「笑い」がないと呼吸できなくなるから
この2週間笑えない事に巻き込まれ
金魚のようになってました
んで、お姉さんって今は何されてるの?
格闘家?
キシリア様は強かさ。
己の手は最後まで汚さずとっておくのよ。
まだまだだねw
おおおお、手段の為に目的を探す!!
ひとつの行動を行うために、それに見合った目的を探す、
というワケですね。
いや、鈍いだなんて!!
オレの目にうつるkaj様は、カミソリのようにスパスパです!!
●Fruits様。
いやぁ、こんなのでも
そう仰っていただけるとありがたいです。
こちらこそ救われます!!
あ、姉ですか?
格闘家じゃなくて(笑)、今は工場の事務員やってます。
●春紫苑様。
うおおおお!!
「己の手は最後まで汚さずとっておく」
なんかものすごくシビレます!!
姉、直情型ですからねー。
まだまだですわー。
笑わせてもらいました。
僕は以前、激しい便秘男だったので、お姉さんの気持ちがちょっとだけ分かったり。
機会を逃すと次いつ来てくれるのか分からないのですよ…orz
TBさせてくださいね。よろしくお願いします。
はじめまして!!
トラックバックしてくださってありがとうございます!!
便秘で苦しまれたことがあるのですか!!
女性のほうが酷いと言われますけど、
やはり男性でも苦しむ方は酷い思いをされるのですねー。
便秘、すっごい苦しそうですもんね。
なんか恐そうです・・・