退院した日、久しぶりに家族と夕食を共にした。
仕事をしてりゃ、オレが帰ってくる時間には
両親はすでに夕食を終えてるし、
なんせ、ここんとこ入院ばっかしてたから、
家族3人で食卓を囲むのは久しぶりだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
親父は焼き魚を食う。

母親も焼き魚を食う。

でも、オレは魚があまり好きではないので焼き魚を食わない。
 
 
 
 
 
酒に酔った親父はそんなオレを見て、「魚も食えよ」と言う。

母親は、それに続けて「このお魚は美味しいんだから食べな」と言う。

オレは、心の中で
(この魚が美味しいと感じるのはアンタの価値観であって
 オレの価値観では美味しいとは感じられないのだ)と思いながら、
「あぁん」と曖昧に返事をする。
 
 
 
 
 
親父は、尚もオレが魚に手をつけずにいると、
「この魚は高級魚なんだぞー」と言う。

母親もそれにならって
「美味しいよ、なんせ高いから」と言う。

ソレを聞いてオレは、
(高価なモノだから美味しいという考えは歪んでる)と思いながらも
「食う時はオレのタイミングで食うからそう急かすな!!」と
ちょっとだけイライラする。
 
 
 
 
 
親父はソレを聞いて「おぅ」と答え、また魚を食い始める。

母親は黙って魚を食っている。

オレは、ちょっとだけ魚をつついて食べてみる。
 
 
 
 
 
親父はソレを見て、
「そんなんじゃダメだ。
 もっと大きく食べなきゃ味がわかんねーだろ」と言う。

母親は、「お父さん、あんまり口を出さんな」と言う。

オレは、イライラしながら親父の言ったとおりに
魚を大きめにほぐして食う。
 
 
 
 
 
酒に酔った親父は、「美味いべ?」と言う。

母親は無言でオレを見ている。

オレは、全然美味いとは思わなかったのだけれど、
「まぁまぁ美味いんじゃね?」と調子を合わせる。
 
 
 
 
 
親父は、途端に満面の笑みを浮かべて
「だろ〜、なんせ高級魚だからよ」と言う。

母親も、少し微笑む。

オレは内心、(ベツに美味かねぇよ)と思う。
 
 
 
 
 
酔った親父は俄然、調子にのって
「美味い美味い」と魚をバクバク食う。

母親も魚を食う。

オレはもう、魚に手をつけない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
と、調子にのった親父が魚をパクついていると、
急に親父の口から「ガリッ」という音がした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
親父は「痛っ!!」と声を出した。

母親は、「骨?」と訊く。

オレも(骨を噛んでしまったのだろうな)と思う。
 
 
 
 
 
しかし親父は「わかんねー」と答え、
尚もソレを噛み砕こうとチャレンジして、
再び「痛っ!!」と声をあげる。

母親は、「骨なんだから無理しないで出しなよ」と言う。

オレも(出せばいいのに)と思う。
 
 
 
 
 
しかしそれでも、酔った親父は調子にのって、
「ん?こんなの食えるよ?」とまたソレを、
何度も何度も噛み砕こうとして
何度も何度も「痛っ!!」と声をあげる。

母親は、そんな親父の様子を見てイライラしたのか
「いいから、固い骨なんだから無理して食べることないから!!」と
強めに声を出した。
「あんまり調子にのってふざけらんな!!」

オレも酔って調子にのっている親父を見て
だいぶイライラしていた。
 
 
 
 
  
でも親父は意地っ張り。
「骨なんか食べないで出しな」と言われると
「どーしても食べてやろう」という気になる厄介な性格。
「こんなの食えるぞ!!」

母親は、「いいから出しなよ!!」と言う。

オレは、そんな調子にのった親父と、
放っておけばいいのに口うるさく「出せ出せ」と言う母親に
イライラする。
 
 
 
 
  
親父は「これは骨じゃねぇもん」と言う。

母親は「じゃ、何よ?」と訊く。

オレはそんな2人を見つめる。
 
 
 
 
  
「うろこ?」
 
「だったら尚更出しなよ!!」

オレは2人を黙って見ている。
 
 
 
 
  
「バーカ、うろこは食えるんだぞ!!」

「うろこなんか食わないよ!!」

「・・・・・・」
 
 
 
 
  
「世界にはうろこの料理だってあるんだぞ!!」

「そんな料理もあるかもしれないけれど、
 これはただの焼き魚でうろこの料理じゃない!!」
 
すでに食事を食べ終えていたオレは、
そんな2人のやりとりがアホらしくなって、
そんなやりとりを聞いてるのがアホらしくなって、
「ごちそうさま」と席を立った。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
茶碗を流しに片付けて自分の部屋へと階段を上っていると、
階下ではまだ、同じことで2人がモメていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「うろこをこんがり焼くと、ポテトチップみたいになるんだ!!」

「ならないよ!!」

「なるよ!!」

「大きさが違うでしょ!!」

「じゃ、ポテトチップ食べた後のカスだ!!」

「そんなの美味しくないでしょ!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
オレは、ソレを聞きながら、
なんだかそのアホらしい雰囲気を懐かしく感じた。

病院の食事にはなかった味。

仕事帰りに1人で食う食事にはなかった味。

アホくさかったけど、その日の食事にはソレがあった。

アホくさかったけど。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

コメント

あんにばる
2007年3月7日0:10

遅ればせながら、退院おめでとうございます。

辛い思いをなさったと思いますが、こうして家族の温かさを再認識できたという意味では、決して悪い体験ではなかったようですね。

どうぞ無理なさらずにご自愛ください。

ポピー
ポピー
2007年3月7日0:14

あったかい食卓じゃないですか。
ちょっとうざい親かもしれないけど、息子ゲルさんがやっと退院してきて、どうしてもうまくて栄養のつく高級魚食べさせたかったんですよ。で、勧めた手前、骨だろうがウロコだろうが、何としても完食したかったのかも。
うちもね〜、娘や息子にうざがられているアホな夫婦です。
なんか、ご両親の言い合いに非常に親近感持ってしまった。。

chocolate
chocolate
2007年3月7日0:20

退院おめでとうございます^^
食卓でのやりとり、ほのぼのしました。
おなかいっぱいの私に、ミカンをしつこくすすめるお祖父ちゃんの姿を思い出しました(笑

みーこ
2007年3月7日9:36

遅くなってしまいましたが、
退院おめでとうございます^^
たて続けに入院だなんて…大変でしたね(汗)

ゲルタさんのお父様。
うちの父に超そっくりです(笑)
同じような事があって結局無理矢理飲み込んだら、
骨だったらしく喉にささって病院行きでしたよ(*´д`)

ゲルタさんも、お体大事になさってくださいね!

ゲルタ
ゲルタ改
2007年3月7日22:28

●あんにばる様。

お祝いのお言葉をありがとうございます!!

そうですねー。
なんかアホみたいな家族ですけど、
こういうことがあるとやっぱり有り難さを再認識しますわー。

や、お言葉ありがとうございます!!
 
 
 
●ポピー様。

高級魚を食べさせたいって気持ちは
すっごいありがたいんですけどねー(笑
でも、できれば違うのが食べたかった・・・って、
そんなワガママを言っちゃダメですね、オレ。

うはは、親近感!!
でもやっぱり、子供ってうざいと思ってても
ホントのところは感謝してますよー。
オレもそうですもん。
 
 
 
●chocolate様。

ありがとうございます!!

あああ、おじいちゃんとかおばあちゃんとかって、
やたら食べ物を勧めたりしますよねー。
嬉しいし、ありがたいんだけど、もう食べられないよって(笑
ウチの祖母もそうでした。
自分で作ったスイカを食え食えって
すっごい勧めてくるもんだから、
夏休みに祖母の家に行くといつも腹をくだしてました。
 
 
 
●みーこ様。

ありがとうございます!!
やー、もう、しょっちゅう入院してるもんだから
病院が第二の故郷みたいになってきました(笑

あははは、みーこ様のお父様も!!
しかも病院に!笑
なんでそんなところで意地をはるのか
まったくわかりませんよね(笑

や、お見舞いのお言葉ありがとうございます!!

nophoto
xYUKIx
2007年3月8日11:57

なんでもないようなことが実は凄くステキな事だったりするんですよね。
この日記読んで、改めて家族全員で笑って過ごせてる事が幸せなことなんだって思えました。
勿論『もっとアレが出来たらいい』とか『こんなの嫌だ』とか思う事もあるんですが、今ある幸せを幸せなことだと感じていられるっていう事が大事なんだなって。
なんだか最近、ゲルタさんの日記を読んで考えさせられることが多いです。
感謝してます!

ゲルタ
ゲルタ改
2007年3月8日22:27

●xYUKIx様。

や、ありがとうございます!!
そう仰っていただけると、ウチの親もアホでよかったな、と(笑

ホント、欲を言えばいろいろあるんですけど、
それも、今現在を生きているという幸運の上に
成り立っているものですもんね。
つい忘れがちになりますが、いつも、
「今」を幸せに感じていたいですよね。

ややや、
こんな日記にそこまで仰ってくださって、
こちらこそ感謝してます!!

JUN
JUN
2007年3月9日17:44

平和な世の中で何よりです。笑

ゲルタ
ゲルタ改
2007年3月11日12:36

●JUN様。

まさしく、平和です(笑

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

この日記について

日記内を検索