ボケ怒涛。

　
　
　
　
　
　
くそぅ。

まただ。
また、テツのヤロウだ。
テツのヤロウがオレの邪魔をするのだ。
オレがTVを見て泣きたい時、テツのヤロウが邪魔をする。

以前は『Dr．コトー』の時だった。

今度は『博士の愛した数式』だ。

オレが『博士の愛した数式』、
その感動のクライマックスで泣いちゃおうかと思っていたら、
タイミング悪く、テツのヤロウから電話が来たのだ。
　
　
　
「もしもし、今、何してた？」
　
　
　
映画だ。
映画を観ていたのだ。
　
　
　
「え？今日って何か、面白い映画あったっけ？」
　
　
　
面白いかどうかはベツとして、
いい映画であることは多くの方の感じられるトコロだと思う。
『博士の愛した数式』。
オレは、「博士の愛した数式」とぶっきらぼうに答える。

するとテツ。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
「何？博士は焼香が好きなのか？
　そんな映画が面白いのか？」
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
・・・なんだ？
コイツ、ボケてるのか？
一応、突っ込んだほうがいいのか？

オレは、一応突っ込みを入れた。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
「そりゃ、『博士の愛した葬式』だな」
　
　
　
　
　
　
　
　　
　
　
　
　
　
　
　
「わはははは！！
　いいねぇ〜。
　ゲルタくん、いい突っ込みしてるねぇ〜」
　
　
　
オレは、テツの言葉に
「うるせぇよ」など思ったのだが、時すでに遅し。
その時オレはもう、テツのペースに完全にハマっていた。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
「あ、『博士の愛した葬式』じゃねぇのな。
　じゃ、アレか？有田焼とか九谷焼とか？」
　
　
　
　
　
そりゃオメー、『博士の愛した陶磁器』だ。
　
　
　
　
　
「お、さすがだな！！
　じゃ、博士はキレイ好きとかそういうことか？」
　
　
　
　
　
？？？
　
　
　
　
　
「テレビショッピングでスイブルスイーパー買いました、みてぇな」
　
　
　
　
　
そりゃ、『博士の愛した掃除機』だっ！！
　
　
　
　
　
「じゃ、アレだな。
　博士は寝る時に、
　ひつじが1匹、ひつじが2匹って数えるワケだけど・・・」
　
　
　
　
　
んなワケねぇよ。
そんなヤツに博士は勤まらねぇよ。
　
　
　
　
　
「博士はその中の、
　1匹めから5匹めくらいの羊がすっごい好きなワケよ。
　あとの羊はそうでもないんだけど、
　1匹めから5匹めくらいはすっごい好きだ、っていう・・・」
　
　
　
　
　
　
え？何だ？
なんて突っ込むのが正解なんだ？
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
「博士の愛した数匹」
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
そんなもん、わかるかぁっ！！
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
・・・・・・
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
貴重な時間は刻々と過ぎていく。

しかしオレは、
受話器の向こうから次々と繰り出されるテツの言葉に熱くなり、
すでに時間などというもの、
そして、肝心の映画、
『博士の愛した数式』の存在などはとうに忘れてしまっていた。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
・・・・・・
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
「んじゃ、アレだな。
　博士は岡山の出身だったとか・・・」（←まだやってる）
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
えーと・・・

あ、アレか！！
『博士の愛した倉敷』か！！（←まだノッてる）

いいところだよ？
倉敷は行ったことあるけどいいところだ！！
そりゃぁ博士も愛するわなっ！！
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
「じゃ、アレだ。
　博士は、1匹めの子ぶたはわらで家を建てて、
　2匹めの子ぶたは木で家を立てて、
　3匹めの子ぶたはレンガで家を建てたという・・・」
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
えーと、そりゃぁアレだ！！
『博士の愛した三匹』だ！！

言っとくけど、「き」しか合ってねぇからね？
『数式』と『三匹』、最後の「き」しか合ってねぇから！！
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
「じゃ、博士が愛したのは芥川賞とった小説家の・・・」
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
柳美里かっ！！
柳美里だろっ！！

もはや母音しか合ってねぇからねっ！！
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
「じゃ、アレだな、塾の。
　やっててよかった・・・」
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
公文式か！？
『博士の愛した公文式』か！？

すでに字数が合ってねぇっつーの！！
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
「じゃ、博士は基礎体温を測って避妊を・・・」
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
オギノ式ーっ！！
『博士の愛したオギノ式』ーっ！！
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　

　
　

　
　
・・・・・・
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
そして時間は過ぎ行き。
気がつけばその時、すでに『博士の愛した数式』は終っていたという。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　

　
　
　
　
・・・・・・
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
「映画、終っちゃったな」
　
　
　
　
　
な。
　
　
　
　
　
「最後、見逃しちゃったな」
　
　
　
　
　
うん、見逃した。
オレは今、オメーに付き合っちゃった自分に、すげー腹を立ててるよ。
　
　
　
　
　
「まぁ、あんまり気にすんな。ドンマイドンマイ」
　
　
　
　
　
オメーが言うな！！
オメーがドンマイ言うな！！
　
・・・ところでテツよ。

オメー、オレになんか用事があったんじゃないのか？
オレに何か用事があったから電話してきたんじゃないのか？
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
「いや、ベツに？」
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
コロスッ！！