母 ノ 努力。

2007年8月5日 日常
 
 
 
 
 
 
夏。
 
 
 
焼け付くような日差し。
蚊取り線香。
セミの声。
 
 
 
夏。
 
 
 
夏休みに遊ぶ子供たち。
熟れたスイカ。
高校野球。
 
 
 
夏。
 
 
 
飛び散る水しぶき。
海なのにスクール水着。
Tシャツからスケてるブラジャー。
 
 
 
 
 
 
そして、どこからか聞こえてくる花火の音。
 
 
 
 
 
 
花火。
ソレは日本の夏には欠かせないモノ。

人は、
ドンドンという打上の音に心を躍らせ、
夜空にパァッと広がる光に酔いしれる。
 
果たして、花火が嫌いだという人はいるのだろうか。
いや、みんなきっと、花火が好きだ。
 
 
 
 
 
 
ウチの母親も、花火が好きである。
そりゃぁもう、花火が大好きである。

どこかでドンドンと打上の音が聞こえれば
「あ、花火なってる!!」とウチの裏窓から夜空を眺め、
遠くで上がった小さく見える花火を見つけては、喜んでいる。
 
昨日の夜もそうだった。
  
晩飯時、
ウチの裏手の方のどこかからドンドンと花火の音が聞こえた。

ソレに気付くと母親は食事中にも関わらず箸を置き、
ダッシュで裏窓に張り付いて、遠くを眺めた。

しかし、昨日打ち上がっていた花火は、
市町村などが開催するドンドンドンドンと次々に打ち上がるような
大きな花火大会のモノではなかったらしい。
きっと、スケールの小さい、町内会とか、
どこかの工場や施設とか、
そんな感じの夏祭りかなんかの花火だったのだろう。
ドンと花火が打ち上がってから、しばらく間があく。
そしてまた、ドン。
打ち上げる人の数が足りないのか要領が悪いのか、
打上と打上の間に、中途半端な間が開く。

母親は、打上の音が聞こえると慌てて裏窓に張り付いたのだけれど、
次の打上がしばらくないと、
「あれ?花火もう終っちゃったのかねぇ」と
また晩飯の続きを食べに戻ってくる。
 
 
 
と、そこに、ドン。
 
 
 
花火が打ち上がる。
 
 
 
母親はまたダッシュで裏窓に張り付くのだけれど当然花火は見れず、
また、しばらく打上がないものだから、
「今度こそ終ったかねぇ」と母親は、ご飯を食べに戻ってくる。
だいたい、花火の音というのは
花火が上がってから数秒後に聞こえてくるのだから
音が鳴ってすぐに駆けつけても遅いのだし、
そんなに気になるのなら
裏窓にずぅっと張り付いてりゃいいようなモノだけれど、
母親にしてみりゃ晩飯の方も気になるらしい。
母親は、花火を気にしながらいちいち戻ってくる。
 
 
 
と、ドン。
 
 
 
 
 
 
昨日の夜は、これの繰り返しであった。
 
 
 
 
 
   
ドン。

母親ダッシュ。

見れずに帰ってくる母親。
 
 
 
・・・と、ドン。

母親ダッシュ。

帰ってくる母親。
 
 
 
・・・と、ドン。

母ダッシュ。

帰ってくる母。
 
 
 
・・・ドン。

ダッシュ。

帰る―
 
 
 
 
 
 
ソレを見てオレは、息子ながら「なんだろう?この人」と思う。
  
 
 
 
 

そういや昔、まだオレが若かった頃、
母親がイナズマを写真に撮ろうとしたことがあった。

オレは雷が大の苦手で
ピカリッと光っても、ガガガンと音がしても、
小さくなって「クワバラクワバラ」言ってるのだけれど、
母親はワリと平気らしく、
のん気に「イナズマってキレイだよねぇ」なんて言っていた。

そこで、ソレをカメラに収めようと思い立ったらしいのだけれど、
いかんせんイナズマ、である。
光、である。
ピカリッと光ってから急いでパシュッとシャッターボタンを押しても、
とうてい間に合うモノではない。
 
 
 
しかし、母親は努力する。
ヘンなところに努力家の一面を見せるのだ。
 
 
 
ピカリッ

パシュッ
 
 
 
ピカリッ

パシュッ
 
 
 
ピカリッ

パシュッ
 
 
 
ピカリッ

パシュッ
 
 
 
当然、現像されて戻ってきた写真には
イナズマなど写ってるハズもなく。

写真には、
ただただ雲に覆われた暗い空が写しだされているだけ。

その、ただの曇り空が写し出されている写真を見て母親は
大変残念だ、という顔をし、
そして、その残念顔をしている母親を見て、父親は、
 
「あのな。
 目で見たものの情報は一端、脳に行って、
 そして脳がシャッターを押せって指令を出して、
 それから指がシャッターを押すんだから。
 “あ、光った”って思って急いでシャッターを押しても
 稲光には間に合わないんだから」
 
ウチの父親にしてはかなりマトモな意見を述べた。
 
 
 
ソレを聞いて母親は、父親に、
「じゃ、どうすればイナズマは写せるのかね」と訊く。
 
 
 
すると父親は母親に、大真面目な顔をして力強く、こう言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「頑張れっ。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ソレを聞いてオレは、「なんだろう?この人たち」と思った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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