森の中に一匹の美しい蝶と、一匹の醜い蛾がいました。

蝶は、木の隙間から射す光に照らされて、
ひらひらと美しく羽ばたきます。

その姿はまるで、美しい物語の1頁のように優雅で、高貴で、
それでいて圧倒的なもので、
蛾は、その美しい蝶の姿に目を奪われ、
いつしか心までも奪われてしまいました。

蛾は、醜い自分を呪いつつも、
少しでも蝶に近づきたいと、
陽の光を浴びながら、美しく羽ばたこうとしました。
少しでも近づきたい。
少しでもアナタの傍に行きたいと。

しかし、陽の光に羽が焼けてしまいそうで、
蛾は、美しく羽ばたけません。

あきらめきれない蛾は、薄暗く湿った地面の上から、
その羽に白く陽の光を反射させている蝶を見上げて、言いました。
 
 
「ワタシは、アナタの一部になりたいのです。
 ワタシはアナタという物語の一頁になりたいのです。
 アナタという物語にワタシの名前が刻まれたのなら、
 どんなに嬉しいことでしょう」
 
 
すると蝶は、陽の光を背にひらひらと舞いながら、言いました。
 
 
「ワタシが紡ぐ物語の中に、アナタが登場する頁はありません。
 ワタシが紡ぐ物語の中に、アナタは登場しません。
 ワタシは陽の光を浴びて、空を求めます。
 アナタは月の光を浴びて、空を求めます。
 ワタシという物語とアナタという物語は、
 永遠に交わることはないのです」
 
 
それを聞いた蛾は、悲しくてしかたがありませんでした。

だから、蛾は、
せめてその美しい蝶の姿を心の中にしまっておこうと、
薄暗く湿った土の上で、目を閉じました。

目を閉じると、瞼の裏に、
陽の光を浴びながら舞う蝶の姿が浮かぶのです。
蝶の美しい物語が浮かぶのです。

蛾は、薄暗く湿った土の上、いつまでも目を閉じていました。

何べんの朝陽が昇っても、何べんの月が昇っても、
いつまでも目を閉じているのでした。
 
 
 
 
 
そしていつしか、蛾は、羽ばたくことを忘れてしまいました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

コメント

redeye-yan
レッドアイ
2007年8月12日22:02

いつか、蝶が、蛾の渋さ?に気付いて、
今飛んでいるところから降りてきてくれて、
隣に止まってくれると良いなあと思います。
物語はひとつの章だけで終わるとは限らないし、
次の章は蛾が主役かもしれません。
月の光が味方してくれて蛾を格好良く見せてくれる
瞬間もあるに違いない・・・と思います。
その蝶は、分かって無いナ〜、なんつって。

nophoto
ゲルタファン
2007年8月12日22:17

なんだか悲しい物語ですね。胸にキュンとくるようです。過去に自分にもそんなことがあったようなないような…。でも、本当は蛾は飛べますよね!
ゲルタさんの日記は面白いだけでなく、こういった日記も素敵なので好きです。

kaj
kaj
2007年8月13日0:14

これは...選民思想かな?
2000年を誇る新興宗教と、その分派のベドウィンに分化したもの、更にそれらの源流となった国を奪われた人々に伝わるもの。凡て同じ超越者を信じ、その時代のありように合せて、最適化され...現時点では、それぞれの教義に忠実足らんとして、愛のために群れのために永久に殺し合いが続いている。

蝶と蛾はヒトが、勝手に便宜的に分類しただけの「名前」。
生物としての特性は、ヒトの暮らしから視れば、決して実用的ではない分類(羽を閉じ用が羽を開いたままであろうが、その程度の際は、実際問題としてヒトの暮らしには何の影響も無い。象牙の塔の住人の暇つぶし)

まぁ、リアルな私は、昆虫という異質な生き物は、全般に苦手なんですけどね(^_^;)

ゲルタ
ゲルタ改
2007年8月13日8:32

●レッドアイ様。

そうですよね、蝶、わかってない!!
くそ、蝶め!!
なんて、自分で書いておきながら蝶に憤慨したりしています。
蝶なんてみんな、標本になってしまえばいいんだ!!なんて(笑
 
 
 
●ゲルタファン様。

や、ありがとうございます!!
蛾、飛べるはずですよね。
なんせ立派な羽を持ってますし。
空も飛べるはず!!です。
スピッツ的に。
 
 
 
●kaj様。

ややや、
選民思想とか、そういうんじゃないです。
ただなんとなく書いてしまっただけでした。
ヒトが分類したこととかは全く考えないで。
ヒトであるオレが、ヒトであることをいいことに
勝手に作ってしまたお話でした。

槙村 了
槙村 了
2007年8月14日11:58

・・・個人的には蛾も蝶もダメです・・・。
なんであんなにヘロヘロしたものが飛んでいるのか
考えただけでも気持ち悪いです。
よって、私は逃げます。

ゲルタ
ゲルタ改
2007年8月15日9:41

●槙村 了様。

そうですかー、蝶もダメですかー。
蝶は羽だけならいいんですけど、
身体の部分を見ちゃうとちょっと・・・ですよね(笑

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