かつて、「バンドブーム」というモノがあって、
そのブームの中に、
女子高をまわってライブのチケットを捌いたり、
チケットノルマが達成できなくて自腹でチケット代を払ったりと、
そんな、バンド漬けの青春時代を過ごしたモノとしては、
「バンドやるべ!!」
何歳になっても、その言葉に弱いものである。
しかも、
「ボーカルやってくれ」なんて言われてしまったら悪い気はしない。
「まぁ、オレがいねぇと華がねぇからな」
オレは、二つ返事で引き受け、
かつて組んでいたバンドのメンバーからジェット氏、
そしてリュウの2人を除いた4人で、
オレらのバンドは動き出したのだが・・・
どのバンドも経験するように、
実際にバンドが動き始めるまでにはいくつもの壁が立ち塞がる。
【1.音楽の方向性】
テツとタカとユキとオレ、
ソレにジェット氏とリュウを加えた6人で、
かつてオレらはバンドを組んでいた。
音楽の技術はともかく、派手なパフォーマンスと衣装、そして、
オレ以外のメンバーがカッコイイこともあって、
オレらのバンドはそこそこの人気が出た。
地元の情報誌の人気投票でも常にトップ10入り。
最後のライブは小さなライブハウスだがワンマンでいっぱいにした。
当時は「ビジュアル系」なんて言葉は無く、
オレらは「化粧バンド」なんて呼んでいて、
オレらもまさしくその「化粧バンド」であった。
音楽の中身もチャカチャカ軽い感じであって、
当時はGUN’SやANTHRAXに燃えていたオレは
違うメンバーともバンドを組んでいて、そこでボーカルだったのだが、
「オマエ、ボーカルやってたし」
その実績がかわれてのボーカル抜擢だった。
「で、どんな方向性で行くの?」
オレは訊く。
「昔みたいのはイヤだよ?」
オレがやりたいのは『骨太のロック』だ。
「やっぱオリジナルでしょ」
「だから、そのオリジナルをどんなのにするかだよ」
「でも、みんな忙しいし、オリジナル曲作んのとか時間が無いだろ」
この時点でバンドマン失格である。
「じゃぁさ、昔あった曲を、
勝手にアレンジしちまうってのはどう?」
「おお、それなら歌詞作る必要ないしな」
この他力本願具合、やはり失格である。
「じゃ、何をアレンジすんの?」
「やっぱさ、意外な曲を大胆にアレンジすんのさ」
「“え〜っ、まるで違う曲みた〜い”って感じな」
「だから、具体的に何をアレンジすんのさ?」
オレが問い掛けると、みんな考え込んでしまう。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
と、テツが口を開いた。
「テレサ・テンとか?」
「ああ〜、いいね〜」
「良くねぇよ」
オレ、反対。
「つーか、テレサ・テンをどうやってバンドにアレンジすんだよ!?」
「パンクだよパンク。
『つぐない』パンクバージョン」
「窓にぃ西ぃ陽ぃがぁぁぁ〜
当たるぅぅぅ部屋ぅはぁぁぁ〜、みてぇな」
「オイ!!オイオイオイオイ!!みてぇな」
「オイパンクかよ!!」
「良くねぇ?」
「いいよな?」
「良くねぇよ。
つーか、テレサ・テンに悪ぃ気がするよ」
「バーカ、トリビュートだよな?」
「そうだよ、トリビュートだよ」
「『つぐない』をパンクにしちゃったら
それはトリビュートとは言えねぇよ!!」
【2.バンド名】
新しくバンドを組むにあたって、
どのバンドにも最大の悩みであるのがバンド名であろう。
つけてみれば案外しっくりと馴染むものだけれど、
最初のうちはあーでもないこーでもないと悩むものだ。
かつてのオレらのバンド名はとても恥ずかしいので言えないのだが、
元はといえば、“ダッチワイフ”からきている。
最初は恥ずかしくてイヤだったが、解散時期くらいになれば
その名前に誇りすら感じるようになった。
要するに、バンド名など、バンドが動きだせば
愛着が湧いてくるものなのだ。
ちなみに、オレが掛け持ちしていたもう1つのバンドは、
通称『I.M.J.J』とマヌケな感じで呼ばれていたのだけれど、
その実が、『あいだももの、もものあいだはじゅくじゅく』という
エロビデオのタイトルからつけられていたことは、
ファンだ、という女の子の間でも知られてはいなかった。
「バンド名はどうする?」
オレが問い掛ける。
「あ〜、カッケーのがいいな」
「カッケーのな」
「どんなのがカッケー?」
「あ〜、アレとか。
ドリームズ・カム・トゥルーとか、エブリ・リトル・シングとか」
「マイ・リトル・ラバーとかな」
「カッケーか?
それ、カッケーか?」
「カッコヨクない?」
「カッケーよね?」
「カッケくねぇよ。
つーかオレ、そういう文章の名前はキライなんだよ。
やっぱさ、ブルーハーツとかクロマニヨンズとか、
最後がツとかズとかスで終るのが良くないか?」
オレがそう提案すると、
「あ〜、ズとかスとかで終るのね〜」
そういってみんな、考え込んでしまった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
と、そこでテツが、
何かに操られたようにボソッと呟く。
「ホワイトーベース・・・」
ガンダムに出てくる宇宙戦艦の名前。
「あ、最後がスだな」
「ホワイトベース、いいよな?」
「良くねぇよ」
オレ、反対。
「なんで?最後がスじゃん」
「そういう問題じゃねぇよ」
「いいじゃんなー、ホワイトベースで」
「なー、“シークレットベース”みたいな感じで。
♪君と夏の終わり〜将来の夢〜」
「だったらシークレットベースでいいよ!!
いや、シークレットベースもイヤだけど!!
なんだよ、バンドの名前が“秘密基地”って」
【3.芸名】
今では本名そのままを名乗るバンドマンも多いが、
かつてのバンドブーム、しかもその中にあって、
「化粧バンド」をしていた連中というのは、大抵が、自らを
「taka」とか「TOMO」とか、
恥ずかしい話だがローマ字表記で、しかも芸名を名乗っていた。
オレらも例外ではなかったのだが、オレらのバンドが少し違ったのは、
出発点が文化祭で、しかもイロモノ的要素を持っていたせいか、
ふざけ半分で個人個人に仰々しい名前がついていたこと。
そして、スペルが解らないからカタカナ表記であったこと。
今になってはすこぶるダサく、とても恥ずかしいのだが、
例えば、リュウだったら
「ジーニアス・セクシー・レイジー・リュウ」、
ジェット氏だったら「ジェット・カタストロフィ」、
テツだったら、「クレイジー・テツ・ジンジャー」、
オレは「トレイシー・ローズ・ゲル」、
タカはそのまま「タカ」であったが、
ユキにいたっては「JPSスペシャル」だなんて、
自分の名前のカケラさえもない。
ちなみに、「クレイジー・テツ・ジンジャー」と
「トレイシー・ローズ・ゲル」の名前は、
往年のアメリカのポルノ女優から来ている。
「それぞれの名前はどうする?」
「芸名ってこと?」
「芸名みたいなのは無くていいんじゃね?本名でいいじゃん」
「本名だと恥ずかしくねぇ?」
「うん、恥ずかしいな」
「いや、今の時代に芸名の方が恥ずかしくないか?
フツーに“テツ”とか“タカ”とか“ユキ”でいいじゃん」
「そう?
“クレイジー・テツ・ジンジャー”みたいのは要らねぇ?」
「“JPSスペシャル”とかな」
「要らねぇよ」
オレ、反対。
「つーか、前から思ってたんだけど“スペシャル”ってなんだよ」
「あ、タバコの名前」
「JPSスペシャルってタバコがあんだよ」
「あ、そうなんだ」
「そうそう」
「今まで知らなかったんだ?」
「知らなかったわ。
つーか、解りにくいもん」
「そう?
じゃ、今度の名前はわかりやすくするか」
「じゃ、バンド名はホワイトベースだから・・・」
「オレ、そのバンド名にまだ納得してねぇんだけど」
「オレはガンキャノンでいいよ。ガンダムはユキに譲る」
「あ、ありがとう。
じゃ、タカがガンタンクで。体型がガンタンクだし」
「じゃ、オレは?」
「ん〜、ゲルタは〜・・・」
「コアファイター・ゲルで」
「なんでオレだけ飛行機なんだよ!!」
「じゃ、ザクで」
「グフでもズゴックでもいいよ」
「オレだけジオン軍かよ。
つーか、もう、そういう名前とか要らねぇから。
コミックバンドじゃねぇんだから」
「そう?」
「じゃ、フツーにするか」
「フツーでいいよ」
「あ、オレいいの考えた!!
ゲルタの名前でいいの思いついた!!」
「オレの名前?
だからオレは、本名でいいって」
「いや、カッケーから!!」
「何?」
「ゲルタ、こないだいきなり倒れたでしょ」
「うん」
「そこで思いついたんだけど」
「うん」
「YOSHIKI!!」
「絶対イヤだ!!」
「アレよ?XJAPANのYOSHIKIからきてんのよ?
YOSHIKIみたいにライブの最後に倒れろよ」
「だから余計にイヤなんだよ!!」
オレらのバンドの船出の日は遠い。
コメント
ゲルタさんもメンバーさんもお茶目すぎですっ!
体型がガンタンクって…想像してしまいました。うぷぷ。
連邦側でコアファイター以外だと…「ジム」?
あ、ホワイトベースに搭載されてませんでした…すみません。
それにしてもトレイシー・ローズとは。
ゲルタさんよりも10歳以上年上の男性が、あれこれお世話になった女性ではありませんか?(なんて)
追伸 主人は昔「悶絶団地妻」というバンド組んでました(笑)
朝っぱらから、こんなコメントで…ごめんなさい
おおお、トレイシー・ローズをご存知でしたか!!
オレが高校のとき、ビデオテープがクラスに出回ったんですよ。
トレイシー・ローズ&ジンジャー・リンの。
なのでオレがトレイシーで、テツがジンジャーだったんです。
うはははははは、悶絶団地妻!!
なんか、ラブソングは歌えないで名前すよね!!(笑