公園のベンチにあの人と並んで腰を下ろす。
天気予報では「気温は平年を上回るでしょう」と言っていたけれど、
やっぱり11月。寒いものは寒い。
だいたい、平年の気温が寒けりゃぁ、
その気温をちょっと上回ったところで
寒いということには変わりないもんだ。
(小錦が何キロダイエットしても
やっぱり太ってることには変らないのと同じだな)
そんなことを、ふと、思う。
公園では5匹だか6匹だかの犬が走り回っていた。
多分、愛犬家のサークルみたいなもんだと思うのだけれど、
本当のところは定かではない。
「犬、喧嘩しないんですかね」
走り回る犬たちを見て、あの人が言う。
あの人は両手にホットの紅茶を持っていて、
オレは、「ああ、やっぱり寒いんだろうな」と思う。
あの人の吐く息はうっすら白く、オレは、
「公園に来たのは間違いだったか」と少し後悔。
オレがコンビニで温めてもらったまるごとソーセージも、
すでに冷めかけている。
「犬、喧嘩しないんですかね」
あの人がまた言った。
「穏やかな性格なんですかねー」
オレもそう思った。
何匹かの犬が集まってて、よく喧嘩しないもんだ。
ウチで以前に買ってたジョンは、
近所の犬とよく喧嘩していたもんだけど。
「飼主に似る」とよく言われるけれど、
ジョンは、不幸なことにオレに似てしまったようだ。超攻撃的。
ベンチに座ってしばらくすると、1匹の犬が、こちらにやってきた。
小さくもなく、大きくもなく、いわゆる中型犬で、毛が短い。
なんて種類の犬かはわからないけれど、
その犬がベンチに座るオレとあの人の方をじっと見ている。
「尻尾振ってますね」
あの人が言う。
実際、その犬はこっちをじーっと見ながら舌をべろーんと垂らし、
「ハッハッ」と言いながら尻尾をブリンブリンに振っていた。
そのブリンブリンの尻尾がちょっと、
レレレのおじさんの箒に似てるなーとか、そんなことを考える。
「なんで尻尾振ってんですかね」
オレが言うと、彼女は応える。
「パン、貰えると思ってるんですよ、きっと」
パン。
コンビニで温めてもらったまるごとソーセージ。
「まるごとソーセージ、美味いですから。
この美味さは犬も知ってるんですよ」
オレが言うと、あの人はあははと笑いながら、
「犬、そのパンを食べたことあるんですか?」と言う。
「いや、本能です。
眠っていた野生の本能で理解したんです、きっと」
オレが言うと、あの人はまた、あははと笑った。
犬は相変わらずこっちを見ている。
相変わらず舌はべろーん、尻尾はブリンブリン。
「欲しがってますね、完全に」
あの人は言う。
正直、オレとしては折角買ったまるごとソーセージを
どこの馬の骨とも解らない犬にくれてやりたくはない、と思う。
内心、
(おい、飼主、このブサイクな犬をさっさと連れてけ!!)
と思う。
だいぶ離れた場所に何人かの集団がいるから、
そこにこの犬の飼主もいるのだろう。
(立ち話なんかしてねーでさっさと連れてけ!!)
そう思う。
しかし、ベツの考えもすぐに浮かんだ。
ここはひとつ、この犬にまるごとソーセージをあげて、
オレの度量の広さをあの人に見せるチャンスなのではないか、と、
そんなことがふと、頭に浮かんだ。
「パン、あげるんですか?」
まるごとソーセージを千切ってるオレを見て、
あの人は言う。
「はい」とオレは応え、千切ったまるごとソーセージを手に持つ。
そんなオレの仕草で、これから自分に訪れる幸福を理解したのか、
犬はいっそうブリンブリンだ。
すると突然、あの人が言った。
「おすわり!!」
犬に向かって。
「いや、ただであげるのはよくないかなーと思って。
ほら、おすわり!!」
あの人は犬に向かって言う。
でも犬は、知らん振りでブリンブリン。
オレは少し、笑う。
「この犬、おすわりとかできないんですかねー」
あの人は言う。
オレは、「じゃ、オレがやってみますよ」と言った。
「オレ、結構得意ですから」
するとあの人は「そうなんですか?」と訊く。
「ナウシカ並みですよ」
オレが言うと、あの人は笑った。
「おすわり!!」
オレは言ってみた。
しかし、犬は知らんぷり。
「おすわり!!」
もう一度。
しかし犬は、相変わらずブリンブリンしてるだけ。
(テメェコラ喰っちまうぞコノヤロウ!!)
心の中ではそう思うのだけれど、あの人の前ではそんなこと言えない。
「おすわり!!」
知らん振り。
「おすわり!!」
ブリンブリン。
そんな様子を見て、あの人は言った。
「だめですねー、この犬」
まったく、ダメだ。
おすわりもできないだなんて、なってねぇ。
オレは、「もう、いいや。あげちゃおう」と、
千切ったまるごとソーセージを犬にあげる。
犬は、ガッと千切られたまるごとソーセージに食いついた。
「いいんですか?もったいなくないですか?」
あの人は言う。
オレが、
「ダイジョブです。パンの部分しかあげませんでしたから」と言うと、
あの人はまた笑う。
と、「ジョディー!!」と声がした。
その声がすると、犬が声のした方を振り返る。
そちらを見ると、
飼主らしき若い女性がこちらに走ってくるのが見えた。
ソレでオレは、この犬の飼主があの女性で、
この犬の名前がジョディという名前だと初めて知った。
ハリウッド女優と同じ名前。
「この犬、ジョディって名前だったんですね。
オレの中では太郎とか、そんなんだったんですけど」
すると彼女は、
「でも、ジョディってことは、雌ですかね?」
と言う。
オレは、
(お腹の下を見てみりゃわかりますよ)と言おうとして、
言うのを止めた。
と、そんな間に、ジョディの飼主がこちらにやってきた。
「すみませーん」とか言っている。
何に対して謝っているのか。
パンのことか、それともジョディが、
オレとあの人の間を邪魔したとでも思ったか。
なら、ベツに謝る必要はない、と思う。
「可愛いですね」
あの人が、ジョディの飼主に向かって、言った。
さっきは「ダメですね」とか言ってたのにと、オレは笑う。
すると飼主は、「ありがとうございます」と言いつつも、
「いや、なんかあっちに行ったりこっちに行ったりでー」と
なんだか大変なんだとでも言いたいようなことを言った。
そして、ジョディに向かって、声をあげた。
「ジョディ、sit!!」
するとジョディは、おすわりの態勢になる。
さっきまで「おすわり」をなんべん言っても動かなかったジョディが、
「sit!!」の一言で途端におすわり。
オレとあの人が驚いて
「さっきはおすわりしなかったんですけど・・・」と言うと、
飼主は、言う。
「ええ、ジョディは英語でしつけてるんですよ」
なんだかソレがちょっと、得意げといったように見えて、
オレは内心、ムカッときた。
あの人が隣にいなければきっと何かしら言ってる。暴言とか。
「ジョディ、FUCK!!」とか。
その後、「すみません」とか言って、
飼主はジョディを連れてオレとあの人の元を離れて行った。
その姿を見ながら、あの人は言った。
「なんか、おすわりで座らなかったのに
sitで座ったら、途端に可愛くなくなりましたね」
オレは、笑う。
「ゲルタさんは犬は好きですか?」
オレは、素直に「はい」と応える。
「でも、ジョディは好きじゃないですね」
オレが言うと、あの人は
「私もです」
そう言って、笑った。
コメント
和みました^^
このままゆっくりと仲良くなっていく気がしました!
焦らずがんばってくださいね!
ありがとうございます!!
や、なんかもう、会うたびに毎回焦ってるんですけど(笑
でも、ゆっくりゆっくり頑張ります!!
●JUN様。
そそ、ノロケ日記なんです。
オレは絶対に書くまいと思っていた、
オレが嫌っていたノロケ日記を、今、自分が書いてるという・・・