5人の男がさっきから、器のの中を見つめている。
器の中には、玉子。
味がよーく染みてそうな、おでんの玉子がひとつ。
男たちは、その玉子を見つめている。
「ここは、平和的にいこうじゃないか」
オレが言うと、彼らは口々に
「ジャンケンで決めるか?」そう言って、
組んだ手を裏返して中を覗いたりしている。
その様子を見てオレは、
(そんなことしたところで、
何を出せばジャンケンに勝てるかなんてわからんよ)
そう思うのだけれど、まぁ、好きにやらせておく。
ジャンケン。
これほど単純かつ明快なルールもない。
グーはチョキに勝ち、チョキはパーに勝ち、パーはグーに勝つ。
この3つの組み合わせで人々は勝者と敗者に別れる。
「遅出しとかズルはすんじゃねぇぞ?
ズルしたヤツは、おでん監視委員にああいう風にヤラレるからな?」
「ああいう風」と顎で示された方には1人、
カズが腹を抑えてうずくまっていた。
―遡ること少し前。
飲み屋に集まったオレらは、
「やっぱ、冬はおでんだべ」と、メニューにあったおでんを注文した。
人数を考えて、おでんを2つ注文。
店側の配慮なのだろう、注文した2つのおでんは、
1つの器にまとめられて運ばれてきた。
少し大きめの器の中には、
きんちゃく、大根、昆布巻き、はんぺんなどがあり、
どれも、程よく味が染みてそうな色をしていた。
中でも、玉子。
ほとんど茶色に染まったソレには、誰しもが
「おお、美味そー」と感嘆の声を漏らす。
しかし、その玉子は2つしかない。
1つのおでんに1つの玉子、ということなのだろう。
玉子が2つに男が6人。
しかも、その男たちはビーバップ世代を生きてきた
ビーバップな男たち。
自然、高まるバトルの予感。
と、その時だった。
カズのヤロウが座布団から尻を浮かすと、暴挙に出る。
おでんの器の目の前に座っていたカズは、
「玉子もらい!!」
そう言って、玉子に箸をブッ刺し、自らのとり皿の上にのせると、
残りの5人が唖然とする中、
あっという間にその玉子を食べてしまったのだ。
男6人で囲む玉子2つ、そのうちの貴重な1つの玉子を、
マワリの者の許可も得ず、
自らの欲のみであっという間にたいらげてしまったのだ。
オマエ、なんてことを・・・
おでん監視委員、出動!!である。
おでん監視委員の仕事は、
その名のとおりおでんとおでんを食べる者たちの監視、
そして、みんなで囲むおでんの席において、
自らの欲に走ってしまった者に対しての、制裁。
誰の許可も得ずに真っ先に玉子を食ってしまったカズはもちろん、
おでん監視委員の制裁の対象になる。
「おい、君たち、カズを取り押さえてくれたまえ」
オレの一言で、マサがカズを後ろから羽交い絞めにし、
タケとアンがバタつく足を抑える。
「え?なんで?なんで?」
自分がどうして取り押さえられたかが解らないカズ。
なら、教えてやろう。
オマエが制裁を受けなければならない理由を、
おでん監視委員であるこのオレが、教えてやろう。
今、この場所にいるのはオマエを含めた6人だ。
おでんを、6人で囲んでいる。
しかし、6人いるのに、おでんの玉子はわずか2つ。
玉子は、2つしかないのだ。
その貴重な玉子を!!
カズ、オマエは誰に断るワケでもなく、イキナリ食いやがった!!
「なんで?ダメなの?」
ああ、ダメだ。
少なくとも、このおでん監視委員がいる席では、
早いもの勝ちなんて理屈は通用しない。
玉子を食べたいのならば、まず、周囲の了解を得ること。
まず、自分が「玉子を食べたいのだが他の者はどうか」と
周囲の者の意見を聞き、そのうえで、協議するなり勝負するなりして、
そして、初めて玉子が誰の手に渡るかが決まるのだ。
ソレが、おでんのルールなのだ。
おでんというのは民主主義なのだよ。
そして、ソレを見届けるのがおでん監視委員のレゾンデートル。
「なんで?たかが玉子じゃん!!」
たかが玉子だと?
おでんの玉子に向かって、「たかが玉子」だと?
ふっ。まだわかってないようだな。
キサマ、まだわかってないようだな。
なら、教えてやろう。
おい、マサ。
おでんの玉子とは、何だ?
「ダイヤだな」
そうだ、茶色いダイヤだ。
おでんの玉子という存在は、それほど価値のあるモノなのだ。
そのダイヤを、器に一番近い席にいて
他の者が手の届かないのをいいことに独り占めしてしまったオマエは、
やはり、制裁を受けねばならんのだよ・・・
だから!!
キサマには制裁がくだされる!!
おい、おまえら、しっかり抑えておけ!!
そして、テツ!!
やってしまいなさい!!
「チョアッ!!」
カズの腹に、テツのボディブロー炸裂。
「なんで・・・?
おでんの玉子食っただけじゃんか・・・」
うずくまるカズ。
カズよ。
オマエは、このおでんという存在がなんだかわかるか?
このおでんをみんなで食べるという行為が何を意味するかわかるか?
このおでんという存在はな。
このおでんをみんなで食べるという行為はな―
政治なのだよ。
そして、カズが脱落。
「ここは、平和的にいこうじゃないか」
残る1つの玉子は、平和的にジャンケンで
ソレを食べる者を5人の中から決めることとなった。
「遅出しとかズルはすんじゃねぇぞ?
ズルしたヤツは、おでん監視委員にああいう風にヤラレるからな?」
おでん監視委員が示した方には、
テツのボディを食らったカズが横たわる。
「最初はグーは?」
「最初はグー」はなしだ。
「最初はグー」をつけないでいきなりジャンケンで行く。
「よし、じゃ、いくぞ?」
はい、ジャーンケーンポン!!
コメント
あのパサパサ感が・・・。
勝ったら勝ったで食べにくそうな戦いですねwww
ちょくちょくゲルタさんの日記を読ませてもらってました!
んで、リンクさせていただきましたので、
これからも日記よませてください(`・ω・´)
おでんの卵、すげーウマいですよね!
自分も実家でおでんを食べる時は、よく取り合いをしてました!
たいてい力技で姉にとられてたんですけどね...( = =)フッ
友人テツが勝ちました。
オレは負けですー。
●マルクル様。
おおおお、マルクル様はおでん玉子が苦手ですか!!
あー、確かにパサパサ感はありますねー。
んで、黄身にだしを含ませようとするとすぐに溶けちゃいますし。
友人テツが勝利しましたが、
そんなことやってる間に玉子はすっかり冷たくなってました(笑
●せせ様。
はじめまして!!
リンクしてくださってありがとうございます!!
こちらこそ、これからもどうぞ、よろしくお願いします!!
おでんの玉子、スゲー美味いですよねー。
オレも大好きです。
玉子がないと、おでんも盛り上がらなくなってしまうんですよね。
や、玉子、お姉さまにとられてしまってたのですね。
ウチにも姉がいましたが、
なんか、そういう時って強いですよね、姉ちゃんって。