ノリちゃんが、仕事で大失敗を犯してしまった。
 
 
 
 
 
 
ノリちゃんやオレを含めたウチのチームの仕事は
会社側と職員側の間に入って通勤手当や扶養手当、
住居手当などの各種手当を職員の申告書類に基づいて支払い、
または、職員が虚偽の申告をしていないかを精査するというモノ。

例えば、通勤の道のりが片道10?だと5000円、
9.9?ではぐっと下がって2500円の支給になるとして、
職員が、「自分は片道10?の道のりを通勤している」と申告しても、
ウチのチームの精査で9.9?と判断されれば
職員に対して支払われる金額は2500円とする。

例え100mとて一切のオマケなし。
非情な世界。

そんな仕事をしていて、同じ会社内にありながら
独立した存在であるウチのチームだから
職員にすればウチのチームの人間は厄介な存在であって、
職員が会社のユニフォームを着ているのに対して
オレを含めたウチのチームはスーツで仕事をしているから
しばしば「スーツ組」などと呼ばれて忌み嫌われたりする。

スーツ組と職員側はそんな関係にあるから、
ウチのチームの人間が失敗をすると、
職員側はここぞとばかりに攻撃に出る。
 
だから、大失敗を犯してしまった19歳の女子であるノリちゃんは、
自分が失敗を犯したことに気付くと真っ青になって、
やがて顔を覆って泣き出してしまった。
 
 
 
 
 
 
ノリちゃんの失敗は、もう、言い訳なんかできないほどの失敗だった。

なんせ、昨年の秋頃に引越しをして通勤経路が変った
強面なおっさん職員が提出してた申告書類を処理することを忘れて
放置しっぱなしにしてしまっていたのだ。

おっさん職員にしてみれば、通勤の道のりが長くなったのに、
ソレに対して支払われる通勤手当の金額が一向に変らない。

「これはどういうことなんだ?」と、
おっさん職員が、ただでさえ恐い顔を更に恐くして、
まさしく鬼の形相といった感じで怒りまくりで文句を言ってきた為に
ウチらのチームが保管庫などを探したところ、
ノリちゃんが処理するべき書類の中から、ソレが出てきた。

泣いてしまったノリちゃん。

ノリちゃんは
「与えられた仕事さえもきちんとできなかったのが悔しい」
そう言って泣いたけど、それと同時に、
あの怒りまくりのおっさん職員が恐ろしく思えたのであろう、
あのおっさんに謝らなければいけないと思うと
気が遠くなるほどだったのだろうと、オレは感じた。
 
ノリちゃんは泣き声で言う。
 
 
 
「ワタシ、どうしたらいいですか?」
 
 
 
そんなもん、
謝罪にいかなければならないに決まっている。
何も誤魔化そうとせず、速やかに事実をきちんと報告したうえで
謝罪しなければならないだろう。

しかし、本来ならば謝罪に行くのは
上司であるチームのリーダーと、ノリちゃんとの2人で
行くべきところなのだけれど、生憎本日、リーダーは休み。
だからといって、謝罪を先延ばしにすることもできず。
 
 
 
「ワタシ、謝りに行ってきます」
 
 
 
ノリちゃんはそう泣いてグズグズな声で言うものの、
完全に青ざめた顔になって、その足はなかなか歩が進まない。
怯えてるのは明らか。
そして、小さなノリちゃんの身体は一回り小さく見えて、
自分の犯した過ちといえど、自分の歳の倍以上の歳の
しわくちゃなおっさん職員に1人で謝りに行かせるのは
なんだか気の毒に思えた。
 
 
 
「しょーがねぇな」
 
 
 
一緒に行ってやることにする。
ノリちゃんが犯してしまった失敗だとしても、
同じチームで働く人間という観点で見れば
ノリちゃんの上司ではないけれどオレにも非はあるし、
なんせ、おっさんの怒声を延々と聞くには
19歳の女の子の身体はまだ細い。
1人で謝りに行くよりも2人で行った方が、
その細い身体にのしかかる負担も少しは軽くなるだろうし、
その負担をあえて引き受けるのも、男の仕事ってもんだ。
“カッコイイ男”を目指す人間なら、ソレは避けては通れない。
 
 
 
「一緒に謝りに行ってやるよ。
 でも、そのかわり、全部説明すんのはノリちゃんな?
 オレも謝るけど、ノリちゃんもちゃんと自分で謝れよ?
 オレは、時々横から口出してやっからよ」
 
 
 
ノリちゃんは「ハイ」というものの、まだ泣き声。
 
 
 
「時々横から口出ししてやっからよ、マーク・パンサー的な立場で」
 
 
 
オレは、泣いてるノリちゃんを笑わせようとしたけど
「それ、誰ですか?」と返され自分が泣きそうになった。
 
 
 
「え?マーク・パンサー知らねぇの?
 globeにいたでしょ、
 なんか、ジョーイジョーイ言ってるヤツ」
 
「globe、あんまり知らないんです・・・」
 
「マジで?
 じゃ、ノリちゃんが“H jungle”な!!」
 
「ゲルタさんは?」
  
「“with t”に決まってるだろう!!」
 
 
 
ノリちゃんは笑った。
 
 
 
 
 
 
オレらが謝罪するべき相手である
おっさんのいる部署がある部屋のドアの前に立つ。

自分から「一緒に行ってやる」と行ったものの、
正直オレは、ビビッた。
そして、ビビッたらなんか、トイレに行きたくなった。
 
 
 
「ちょっと待ってろ、H jungle!!
 with tはオおしっこをしてくる!!」
 
 
 
トイレに行って、謝罪の仕方をあれこれ考える。
まぁ、あれこれ考えたところで事実を正直に話して
素直に謝罪するしかないのだけれど、
それでも、なんかいい謝り方はないかと考える。
しかし、これといって「いい謝り方」など浮かぶワケもなく
ボーッとしてまたオレは、ノリちゃんが待っている
ドアの前に戻ってきてしまった。
 
 
 
「いろいろ考えたけどさ、何も浮かばないわな。
 ま、全部正直に話して素直に謝るのが一番ってこったな」
 
 
 
ノリちゃんは「ハイ」と言った。
もう、泣き声じゃぁない。
 
 
 
「よし、オレがドアをノックして開けるからよ、
 そしたらまっすぐにおっさんのところに行くのな?」
 
「ハイ!!」

「準備オッケー?」

「ハイ!!」

「よし、いくぞ、H jungle!!」

「ハイ!!」
 
 
 
 
 
 
おっさんの前に行く。
 
 
 
「失礼します!!
 お忙しいところ申し訳ありません!!
 この度、私どものミスで、○○さんに多大なご迷惑を
 おかけしてしまい誠に申し訳ありませんでした!!」
 
 
 
謝った。
 
 
 
「○○さんの書類を処理させていただく担当はワタシだったのですが、
 ワタシがお預かりした大事な書類を保管したまま
 処理するのを忘れてしまったために○○さんに
 ご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ありませんでした!!」
 
 
 
ノリちゃんも、謝った。
 
 
 
「つきましては、
 この度の不始末は上司に速やかに報告をし、
 ノリを厳しく指導することにいたします!!
 誠に申し訳ありませんでした!!」
 
 
 
「マークパンサー的に横から口出し」とか言ってたが、
ほとんどオレが謝った。
オレもノリちゃんも、深く頭を下げる。

オレは、おっさんにどれほど罵られるか覚悟していた。
しかしおっさんは、始めこそ険しい顔をしていたが、
だんだんと表情が柔らかくなり、
なんだか口元には笑いさえうかべていた。

おっさんは、頭を下げるオレとノリちゃんに、
「わかった、もういいから」と言う。

オレはその言葉に頭を上げると、おっさんは
にやにやとしてこちらを見ていた。

そして、言った。
 
 
 
「キミ、ゲルタくんだっけ?」

「はい、ゲルタと申します」
 
 
 
オレが答えると、
おっさんは「ふふふ」と笑いながら、
「それよりゲルタくん」と言い、そして続けて、言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「キミ、ズボンのチャック、開いてるよ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

コメント

きまぱぱ
きまぱぱ
2008年2月27日23:24

!!(≧∇≦)ノ彡 バンバン! ぎゃははは!♪
 ゲルタさん、わざとチャックを空けていったんですね!。
 おぬし、できるね〜〜!。
 最高です!♪。
  

るん
るん
2008年2月28日4:35

天才です!!
いまやゲルタさんは私のなかで最も上司にしたい人
ナンバーワン!!です!!

さかち
さかち
2008年2月28日5:35

ゲル兄グッジョブ!! (`・ω・´) b
ナイスアシストですよ!!(チャック全開が

アミ
アミ
2008年2月28日11:51

かっこよすぎます!!><
そして、チャックはナイス作戦です!!!w

おまさ
おまさ
2008年2月28日12:03

当然、チャック全開は作戦ですよね?ミッション大成功!(笑)

あや
ぁゃ
2008年2月28日18:23

笑いましたw

なる
なる
2008年2月28日20:37

最初はどきどきしながら読んでいましたが…見事にオチがありましたね〜。
ゲルタさん、ナイスです!!

nophoto
りぃ
2008年2月28日21:41

ゲルタさんかっこいいw
ゲルタさんみたいな人と仕事ができれば、
楽しくできそうな気がします
マークのが笑えるのに、若すぎて知らないのは残念^^;

ゲルタ
ゲルタ改
2008年2月28日21:58

●きまぱぱ様。

いえいえいえいえ!!
なんかもう、チャックが開いてるの気付かなかったんですよ!!
「開いてるよ」って言われて頭下げついでに見てみたら、
パッカーンて開いてました(笑
 
 
 
●るん様。

うおおお、そんな!!
上司にしたいナンバーワンだなんて!!
光栄です!!ありがとうございます!!
しかしオレ、結構テキトーですよー。
仕事の指示とかも、
「なんかこう、ガーッてやっといて」とか、
そんな感じですから(笑
 
 
 
●さかち様。

ありがとうございます!!
チャック全開という姿は、
氷のハートをも溶かす効果がありますね!!
おそるべし、チャック!!
 
 
 
●アミ様。

やや、まだまだカッコヨクないんですよー。
努力してるんですが、なかなか・・・
や、チャックはわざとじゃなかったんですよ!!
言われてみて「うああああ!!」って(笑
 
 
 
●おまさ様。

や、作戦じゃなかったんですよ!!
ナチュラルにナチュラルに、全開でした(笑
しかし、おかげであんまし怒られなかったので
結果的にはチャックのおかげ、でした。
 
 
 
●ぁゃ様。

ありがとうございます!!
いやぁ、おはずかしい!!
 
 
 
●なる様。

ありがとうございます!!
もう、始めはオレもすっごいドキドキだったのですが、
なんとかあんまし怒られずに済みました。
チャックのおかげで(笑
 
 
 
●りぃ様。

や、ありがとうございます!!
オレ、仕事中はもう、へんなことばっか言ってますから!!
自分のチーム内での役割は「バカ担当」だと思ってます(笑

しかし、マークを知らないのは悲しいですよね!!
今19ですから、マークがジョーイジョーイ言ってたころは多分、
小学生だったんですよ。
時が経つのは早いものです・・・

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

この日記について

日記内を検索