電車の中で身体の一部が不自由な方やお年寄りが
座席に座れず立っていた時、きっと多くの人は
そういった方々に席を譲っているのだと思うのだけれど、
それでも、電車の中で身体の一部が不自由な方やお年寄りが
手すりなんかに掴まって立ったままでいるのを
見かけることがあるのはきっと、みんな、
そういう方になんて声をかけていいのか解らない、
そして、声をかけるタイミングが解らないからなのだと思う。
 
 
 
 
 
わかる。
 
 
 
 
 
その気持ち、わかる。
 
 
 
 
 
実際、オレもそう。
横浜駅から東京駅に向かう朝の電車、
人がたくさん乗ってる電車の中で、
オレの斜め前におばあちゃんが手すりを掴んで立っているのを見た時、
オレは席を譲ろうかと思った。
でも、それがなかなかできなかった。

まず、おばあちゃんに声をかけることによって、
まわりの視線を集めてしまうのが恥ずかしい。
そして、なんて声をかけるべきかがわからない。
「ここに座ってください」なんて言って断られたら恥ずかしいし、
ましてや、「おばあちゃん」なんて言って
「年寄りじゃない!!」
そんなん言われちゃったらどうしようか、なんてことで悩む。

そしてその結果オレは、
「オレじゃなくても他の誰かが声をかけるだろう」
「優先席に座ってる若いの!!オメーらが席を譲るべきだろ!!」
そんなことで自分を誤魔化して、
自らが動かない理由を他人のせいにして正当化しようとする。

そして、そこにおばあちゃんが立っていることに気付いてるくせに
気付かないフリをして、なんとか目的地までやり過ごそうとする。
心がグチグチに苛まれながら。
それで、何も無かったことにしようとして、電車の床を眺め続ける。
 
 
 
 
 
だが、次の瞬間、
オレはそんな自分をものすごく恥じた。

そんな、床なんか眺めてる自分をものすごくダセェと思った。
 
 
 
 
 
なぜなら次の瞬間、
オレの向かい側に座っていた男性が席を立ったのだ。
外国人。
多分、アフリカ系の黒人男性。
そしてその男性はきっと、日本語がうまく喋れないのだろう。
おばあちゃんの肩をとんとんと軽く叩くと、
さっきまで自分が座っていた席を指さして、そして、
手のひらをくるりと返すとまるで貴婦人をエスコートするがごとく
「ここへどうぞ」とばかりにおばあちゃんを、
席に座るように促したのだ。
無言のままで。
そして自分はそのままつり革に掴まり、
ずーっと窓の外を眺めていた。
おばあちゃんは日本語で「あら、ありがとう」と言ったけれど、
男性はやっぱり言葉が解らないのかずーっと窓を見ていた。
 
 
 
 
 
そんな光景を見てオレは、自分をダセェと思った。
電車の床を見つめてやり過ごそうとした自分をダセェと思った。
「オレじゃない他の誰かがやってくれるはず」
そう思った自分をダセェと思った。
 
 
 
 
 
だいたい、こういうのは言葉じゃねぇんだ。
まず、気持ちで動くべきものなんだ。
言葉が通じない男性がおばあちゃんに席を譲ったというのに、
彼よりもおばあちゃんとのコミュニケーションの手段に
事欠かないオレが席を譲らないでどうするよ。
 
ソレは、恥。

他の人はどう考えるかは知ったことでは無いが、
オレの中で、ソレは恥だ。

例えるならば、席譲り競技に何もしないまま負けたようなもんだ。

さっきも言ったように、他の人は知らない。

立ちたくないから知らんぷり決め込むヤツもいれば、
純粋に疲れていて、しんどくて、席を立てない人もいるだろう。
席を譲るのなんてバカらしいと思う人もいるだろうし、
電車ん中でゲームやりたいから優先席だろうがなんだろうが
そこに陣取って座りつづけるヤツだっているだろう。

だが、ソレはみんな、人のこと。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(まずは、自分だろうが!!)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そこでオレは、探すことにした。
ソレはきっと、オレの自己満足の為だ。
けれど、そのオレの自己満足によって誰かが数分間でも楽になれば、
それはソレでいいんじゃないだろうか。
そう思ってオレは、混んでいる電車の中、探すことにした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
“オレに席を譲られてもおかしくなさそうな人”を。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(譲りてぇ!!オレも誰かに席を譲りてぇ!!)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
もはや、ソレは競技だ。
「席譲り競技」。

さっきの黒人男性、彼はアフリカ代表でオレは日本代表。
彼はさっき、ものすごくエレガントにおばあちゃんに席を譲った。

ならばオレは、その上を行く!!
もっとエレガントに!!かつ、ダンディに!!

狭い東海道線の車両の中で起きる地球規模の戦い。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そう、これは「席譲りW杯」!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
時に激しく!!
時に美しく席を譲れっ!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ただ、「席を譲りたい」と言っても、
それはソレで一定のハードルがあって、誰でも良くはないのだ。
あくまでも“オレに席を譲られてもおかしくなさそうな人”、
すなわち、お年寄りなど。
そういう方に席を譲ってこそ、席譲り選手なのだ。
 
オレは、探す。
オレに席を譲られるに相応しい方を。

しかし混んでる車内になかなか見つからず、時間ばかりが過ぎる。
 
 
 
 
 
(やべぇ・・・横浜―東京間は短いぜ?)
 
 
 
 
 
早くしないと。
早く誰かを見つけ、華麗に席を譲らないと!!
 
 
 
 
 
と、車両のだいぶ向こう側に、
お腹がぽこんと膨らんだ女性を発見。

妊婦さん。

妊婦さんが、手すりに掴まって立ってるのが見えた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(いいねぇー、席の譲り甲斐があるねぇー)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
本当ならば、妊婦さんが電車の中で立っていること自体、
なんだかおかしな話なワケで、
そこに居合わせたマワリの人間が全員、恥ずべきところなのだけれど、
その時のオレ、席譲り選手のオレには、
妊婦さんが電車の中で誰にも席を譲られず立っているというのは
まさしく絶好のチャンス。
 
 
 
 
 
(ふ、待ってな妊婦さん。
 オレが今、アンタに席を譲ってやるぜ!!)
 
 
 
 
 
オレは狭い電車の中、席を立ち妊婦さんの元へと向かう。
しかし、混んでいるが為になかなか妊婦さんの元に辿り付かない。

他の乗客が。
他の乗客がオレの行く手を阻むのだ。

しかし、ソレをすり抜けてこその席譲り選手。
 
 
 
 
 
「あ、すいません」

「ちょっとすいません」
 
 
 
 
 
そうやって頭を下げながら妊婦さんへと向かう。
本当ならばまとめて蹴散らしたいとことだけれど、
ソレはスポーツマンシップに反するというものだ。

あくまでもエレガントに。
ソレが「席譲り競技」の醍醐味。
 
 
 
 
 
「あ、すいません」
 
 
 
 
 
そうやって妊婦さんへと急ぐ。
 
 
 
 
 
「ちょっとすいません」
 
 
 
 
 
早く、早く妊婦さんのところへ!!
 
 
 
 
 
「はい、すいません」
 
「ちょっとすいません」
 
 
 
 
 
妊婦さんはもう、目前だ。
 
 
 
 
 
「はい、すいません」

「ちょっとすいません」
 
 
 
 
 
もうすぐだ。
もうすぐで辿り付く・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
と、その時。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「次はぁ〜東京ぉです」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
無常にも、試合終了の笛が。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
一応、妊婦さんに言ってみた。
 
 
 
「あっちの席、座ります?」
 
 
 
そしたら妊婦さん。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「あ、もう降りますんで・・・」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ですよねぇ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

コメント

るん
るん
2008年6月3日23:12

いつもハイヒールで痛む足を少しでも休めたくて
我先にと席取りに走る私ですが
わたしも誰かに席を譲ってみたくなりました。

ゲルタ
ゲルタ改
2008年6月3日23:41

●るん様。

あ、そうですよね。
女性はハイヒールはくから足がツライですよね。
そんな時はもう、堂々と座るべきです!!
立って足が痛くなったら元も子もないですから!!

マルクル
マルクル
2008年6月4日1:24

外人さん無言でって言うのがカッコ。゜+.(・∀・)゜+.゜イイ!!

でもその妊婦さんが
ただのお腹ぽっこりお姉さんじゃなくてよかったですねww
そんなオチだったと思いながら読んでました
ごめんなさいww

ヒカル
ヒカル
2008年6月4日9:30

専門へ通っていたときとか、休日にバスに乗ったときなんかでお年寄りに席を譲ろうとしたことがあるんですが、俺、怒られました(´;ω;`)ウッ…

『足腰弱ってないから!!!』的なことを言われました(;・∀・)

妊婦さんに席を譲ったときも、タイミングが悪くて、次で降りますとか(´;ω;`)ウッ…

譲り方ってのがあるんでしょうかね・・・。

JUN
JUN
2008年6月4日11:41

「席譲り道」はなかなか難しいですよね。
私も2年くらい言葉が出てこなかったり噛んだりしながら修行を積みました。
今では涼しい顔で「どうぞ」と言えます。3文字は結構言いやすいですよ♪

混んでいる車内はターゲットに近づく前に席を取られてしまうので、
2m離れたら余計なことはしません。
あと自分がケガをすると席の譲り方をいろいろ勉強できます。
ちなみに1番衝撃的だったのは・・・
「座って。お姉さん眠そうだから。」と言って席を譲られた時です。恥!

さかち
さかち
2008年6月4日18:42

自分は足に装具着けてるんで、油断してると席を譲られますよ
充分以上に元気なんだがなww

今度ハマに来るときは一報下さいな
電車でさり気なくゲル兄の前に立ちますよ
御気軽に席を譲って下さいな

まぁ、断るケドな(何

シマリス
2008年6月4日22:16

ゲルタさんって本気でBLOG本にしたらいかがですか?
文章センスあると思います。
いつも引き込まれて読んじゃうし。

なんだか無料で読むのが悪い気がしてきました。

ゲルタ
ゲルタ改
2008年6月4日22:57

●マルクル様。

そうなんすよー。
外国人の方ってのがカッコヨサを倍にしてる感じ。
言葉がわからなくても行動できちゃうんですね、きっと。
や、妊婦さんは本物妊婦さんでしたよー(笑
 
 
 
●ヒカル様。

そそ、そういうふうに、
譲られてるのに怒る人もいるから、譲る気も萎えるんですよね。
例え断るにしろ、怒らないでもいいじゃん、って思いますよー。
そういう人、見分ける術があれば楽なんですけどねー。
 
 
 
●JUN様。

あああ、なるほど!!
「どうぞ」はいいですね!!
言いやすいし、相手に悪い気をさせることもきっと少ない!!
お教え、ありがとうございます!!
「譲り道」は奥が深いっす!!

しかし、眠そうだからって席を譲られるって!!
そんなに眠そうだったんでしょうかねー(笑
 
 
 
●さかち様。

断るですって!!
きぃぃぃ!!
 
 
 
●シマリス様。

やや、ありがとうございます!!
そんなふうに仰っていただけてウレシイです!!
や、オレも昔、ソレを考えたこともあったのですが、
「こんなのヘンテコな文章、ダメだろー」ってのと、
「本にするにしても何をどうすればいいかが解らない」ってのが
ありまして、すっかり諦めてました。

やー、こんなんでお金なんていただけませんよー(笑

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

この日記について

日記内を検索