「面白い話なんだけど〜」
で始まる話が8割がたつまらないのと同様に、
「いい話があるんだけど〜」
で始まる話も8割がた、いい話ではないもんである。
この年になって、
それまで音信不通だった中学の同級生から
突然電話がかかってくるだけでも怪しいってもんなのに、
ソレが「アルバム見てたら懐かしくなってー」とか、
「元気かなと思ってー」とか、そんな話をされたら
こっちはますます怪しく思うってもの。
そんなヤツが「いい話」っつったら
100パーでねずみ講、これ、確定である。
昔はオレんとこ「さん」付で呼んでて、
「タメなんだから呼び捨てにしていいよ」なんて
言われてたヤツからいきなり電話がきたのはつい先日。
「あ、ゲルタ、久し振り〜。
中学で同じクラスだったホンダだよ〜」
まぁ、社会人になっちゃえば
学生時代のチカラ関係なんて無くなって当然なのだけれど、
中学ん時は3年間、ずーっと「さん」付けだったヤツに
20年経ってからいきなり呼び捨てにされると、
ちょっとだけ、腹が立つ。
だいたい、「久し振り」ってなんだ。
20年って時間は「久し振り」の一言で済まされる時間なのか。
オレは、「おう」とだけ応えるのだが、
ソレでもホンダは、オレのそんな不審がった声も気にならないのか
一方的にしゃべる。
「いやー、アルバム見てたら懐かしくなってさー」
そんな言葉を聞いて、ふと思う。
オレとホンダの間に、懐かしがるような出来事はあっただろうか。
ホンダの中学時代を考えて一番懐かしく思えるのは、
休み時間になってもたいてい、ホンダは席を立たなかったこと。
オレなんかは休み時間になるとすぐ、
仲間のイズミくんらと遊んでいたのだけれど、
ホンダは休み時間になってもいつも席に座っていた。
だからオレ、そんなホンダに
「ボッキしてんの?」と訊いたことがあった気がする。
なんだろう。
ホンダはボッキの話が懐かしかったのだろうか。
しかし、違った。
ホンダはべつに、ボッキの話をしたくて
オレに電話をしてきたワケではなかった。
まぁ、35年も生きてればそういう電話がかかってくんのも
2度や3度ではないので、
ホンダから電話がきた瞬間に99パーは見当がついたのだけれど、
それでも、残りの1パー「違うかもしれない」と思ったのは
ホンダも35年生きてきたから。
まさか、35にもなって中学の同級生相手に
ねずみ講もないだろうよ、そう思ったから。
でもホンダは、
「いや、じつはいい話があるからさー」
そう言って、オレの心の中の残り1パーを吹き飛ばした。
「すご〜くいい話があるからさ、
仲良かったゲルタに教えてやろうと思って。
なんだろう。
ボッキの話は仲良しの証だったのだろうか。
ホンダの話は、
簡単に言うと「水を買え」という話だった。
そして、その水を「売れ」という話だった。
なんか知らんが、体にいいらしい。
その水が2リットルのボトルで1本5000円。
まったくアホくさい話である。
オレが「水道水でじゅうぶんだよ」というとホンダは
「水道水なんて何が入ってるかわかんないから危ない」
そう言う。
「それに、水道水って美味しくないでしょ」
いや、じゅうぶんに美味しいですけど。
オレがテキトーに言っていると、
ホンダは急に声をひそめて、言った。
「もしかして、ねずみ講だって思ってる?」
うん、100パー。
するとホンダは
それを疑ってるオレをバカにするように、言った。
「いや、そう言う人もいるんだけど、全然違うんだよ?
ほら、今は水にだってCMあるでしょ?
で、その水は普通のジュースくらいの値段で売ってるでしょ?
あんなのただの水なのにバカみたいじゃん。
あれはさ、CMとかの広告に使われる料金が
含まれてるからあんな値段するんだよ?知ってる?
でも、俺が勧めてる水はそういう広告料とか入ってないから。
みんな、この水を飲んでもらって口コミで広げてるから、
広告料とか使わないで宣伝できるのね?
新しい流通の方法だよ」
どこが新しいんだ、古ぃだろ。
「だから、こんなに体にいい水なのに、
すごい安く手に入れることができるんだよ」
5000円の水が?安い?
まぁ、ソレは人それぞれの価値観の違いだからなんとも言えんが、
確実に言えるのは、
5000円で水飲むんなら酒でも飲んだほうがいい。
しばらくするとホンダは、いきなり口調を変えた。
「いや、俺、覚えてるんだけど、
ゲルタ、中学ん時に病気になってすごい長く入院したじゃない。
治らない病気なんでしょ?」
そのとおり。
現代の医学ではオレの病気は治すことができない。
しかしホンダは、
「でも、治るって言っちゃいけないから
大声では言えないんだけど、はっきり言って―」
そう言ったあと、こう続けた。
「はっきり言って、この水飲むと、治るよ」
ソレを聞いて、悲しいんだか腹が立ったんだかなんだか
わからない気持ちになった。
すぐに電話を切っておけばよかったという後悔と、
一発ブチカマシてやらなきゃ気が済まないという思いが交錯する。
それでもホンダは、オレのことなど気にせず続ける。
「ゲルタがこれを買って、
それでいろんな人に売れば、ゲルタの収入にもなるし
そこからオレにもお金が入ってくるんだよ。
オレさー、この水を売っててすごいお金儲けたからね。
実績でどんどんランクが上がっていってさ、
すごいお金が入ってくるようになんだよ。
こないだ俺、外車買ったもん。
ゲルタもすぐにお金なんて貯まるよ?
みんなが健康になって、ゲルタも病気が治ったら、
すごいいいことじゃない。
それが1本5000円て安いと思わない?」
ソレを聞いて、交錯していた思いは怒りだけになる。
確かに、みんなが健康になってオレの病気も治れば
こんなにいいことはないだろう。
まして、中学ん時から悩んでる体がソレで本当に治るのなら、
オレは100万だって買うだろう。
でも、そういうのって、
それこそ人の弱みに付け込むってヤツなんじゃないだろうか。
悩みがある人に対して悩みが解消する、
そう言って商品を売って自分は利益を求める。
なんてこすズルイ。
なんて忌々しい。
オレがそんなこと思ってムカムカしてる間も、
ホンダはべらべらと続けていた。
「ねぇ、どうする?
じゃ、いっぺん会って、実際に飲んでみたらいいよ。
一回飲んだら判ると思うよ?
んじゃ、いつにしようかな〜」
ホンダは、オレをうまく丸めこめたと思ったらしい。
それからもホンダは勝手に、
待ち合わせ場所とか時間とかを勝手にべらべら続けていた。
オレは、ムカムカしながらその話を聞いていたのだけれど、
するとホンダは、やがてオレが無言なことが気になったのか、
オレにこう言ってきた。
「ゲルタ、俺の話聞いてる?」
だから、ちょっとだけ昔のように、言ってやった。
「ゲルタ“さん”だろ、このボッキ野郎」
コメント
私も卒業後何年も経って「久しぶりに会わない?」って
電話かけてきた同級生がいて、どうやらその手の話のようで、
友達とタッグを組んでガツーンとかましてやりました。(笑)
まぁそういう人には何言っても理解し合えないだろうけど
その場で「もう友達でもなんでも無いから」で終わらせました。
やりたきゃ自分だけでやってろと。友達を巻き込むなって無性に腹が立ちました。
無くならないですよね、そーゆーの。
布団・化粧品・サプリ・洗剤・浄水器・・・
あと、選挙の時期だけかかってくる電話もウザいです(笑)
最後の一言いいですねぇ!!
「人が借金を申し込む時、(無意識のうちに)こいつとは縁が切れてもかまわないや、と思う人間を選んでいるものなんだよ」
これ、初めて耳にした時、かなり衝撃受けました。
(だから、早くあたしは借金を返したいッ!!と思う・・・)
この「借金を申し込む」を、
「いい話を持ってくる」や「面白い話を持ってくる」「カラダにいい水を持ってくる」などなど、
いろーんな言葉に置き換えても、モロぴったり当てはまると思いませんか?
だからあたしは、そういう話を持ってきたヤツは
「あぁ、こいつアタシのことを、そういう位置に置いてるのね・・・」
はい了解、って(心の中で何かのスイッチをカチッと切ります)
丁重にお断りした後、あたしから縁を切るようにしてます。
私の周りでも、昔も今も同じ・・・本っ当ーに!
イイトシになったっつーのに、マルチ、ねずみ講、自己啓発やネットワークビジネス・・・後を絶たないんですネェ。
心底、イロイロな意味で「可哀そうだな、お前・・・」って思います。
痛いね、そういうの。
3ン歳になって、そんなモノに染まって頑張るのって。
どう贔屓目に見ても、コイツ人生捨てているよね。
普通3ン歳っていったら、今後の人生設計をマジメに考えて実行しなければヤバイだろう歳に、高校生でも引っかからないようなコトに時間費やして・・・更に勧誘の電話まで出来てしまうその精神構造が自分には理解できませんですハイ。
どっちが先だったかなんて覚えてないんですが、一つは「ブッポウ」という宗教でした。「今、ここで信じないとあなたは悲惨な死に方をする」って入信を迫ってきたけど、私は自分の神様しか信じないからと、その場で信じずにそこを去って、かれこれ15年は経ってます!
それともう一つは、「ユニティ」とかいうので、ゲルタさんと同じように「水」を買うことを勧められました。私にその話を持ちかけたのは多分、統○教会だと思います。
本当に、そういう話を持ちかけてくる人に限って、学生時代に特別仲良くした覚えのない人なんですよねぇ〜。だから誰だったか忘れちゃいました。
もう一つ思い出しました。「アムウ○イ」です。
先週も主人に「人の話の聞いたままを伝言ゲームみたいに伝えるな!そういうヤツがねずみ講で引っかかるんだ!」と注意されたばかりです。
別に最近そういった話が来たんじゃないんですが、姉妹の家計の実情もよく調べないでお金を貸すなよ、ということを言いたかったみたいです。
オレもビックリでしたー。
今でもこんなこと言ってくるのいるんだ、って(笑
かなり昔ですが、この日記にもたまに出てくる友達から
「ふとん買え」言われたことがあって、
ソイツをボコボコにして止めさせたことあります。
や、ボコボコにする必要はなかったんですけど(笑
でも、そのふとんの会社、社長が逮捕されて
話題にもなってましたし、
こういう話はロクなことないですよね。
●あんあん様。
ご無沙汰しております!!
ホント、なくならないんですよねー。
こういうのがなくならないのは、
ソレにまた、
引っかかってしまう人がいるからなんでしょうねー。
みんな、内心ではわかってるハズなのに、
ナゼか、そういうのに引っかかってしまうという。
あああ、選挙んときの電話もイヤですねー。
知ったことか!と思います(笑
●アミ様。
いや〜ん。
ありがとうございますー!!
社会人になったら昔の力関係なんてもう、
通用しないのはあたりまえなんですけどねー。
でもオレ、ワリと縦社会に生きてきた人間なので(笑
●なこ様。
深い!!
深いですねー、そのお言葉!!
確かに、そうですよね!!
そして、そういうのは必ず友達を無くしていきますよね。
金を得るために友達なくすのか、
友達であるために金はあきらめるのか、
金を選んだのなら所詮、
ソイツとはそこまでの関係なのかもしれませんよね。
しかしホントにこういう話はなくならないですねー。
ソレに引っかかる人がいるから後をたたないんでしょうけど、
もうちょっと、考えてみようぜ?って感じですよね。
●スカル1−1様。
痛いですよねー(笑
フツー、35とかだったらもう、
そういうのは見通せるはずですもん。
実際、お金をもうけてるのかもしれないけれど、
そのかわりに多くの友達とかも無くしてるはずで。
35にもなって、そこに気づけないのは
まったくバカモノとしか言いようがないですね。
ホント、理解できんです。
●はちみつ様。
ア○ウェイ!!
知ってます知ってます!!
てか、オレ、その販売会場みたいのに
連れていかれたことありますよ!!
入院したとき、お気に入りの看護婦さんと、
退院したらデートする約束しまして、そのデートの日、
看護婦さんが「行きたいとこある」っていうから
一緒に行ったら、危うく浄水器買わされそうになりました(笑
あ、こんどこの想い出話日記に書こう!!
思い出させてくださってありがとうございます!!(笑