突然の雨。
道行く人は傘をさし、
また、傘を持たぬ人はカバンで頭を隠したり、
薄っぺらなハンケチを頭にのせたりして、
なぜか、雨から頭だけを守る。
「どうして人は、雨が降ると頭だけ防御するんだろう」
頭にハンケチをのせたところで防御力は1程度。
ドラクエでいったら『ぬののふく』じゃないか。
路肩に停めた車の中で
そんなことを考えながら雨に道を急ぐ人を見ていると、
ふと、通りを歩くひとりの女性に目が行った。
女子高生。
通りの人が雨に道を急ぐ中、その女子高生は傘を持たず、
だが、特段雨に急ぐふうでもなく、
ただ、ずぶ濡れになりながら道をほてほてと歩いている。
雨は彼女の長い黒髪にまとわりついて離れず、
晴れていた朝にはバシッと決めていたのであろう髪型を
跡形もなく崩し、ただ、下へ下へと向けて伸ばしている。
「・・・貞子ですな」
♪く〜る、きっとくる〜
その先の歌詞は知らないから、オレの頭の中には
「♪く〜る、きっとくる〜」がそこだけ繰り返し流れ、
オレは自分自身に「何がくんだよ」、
そう思って若干面白かったワケなのだけれど、
しばらくの間、雨に濡れるのも構わずに
ほとほてと歩く彼女を目で追い続けると、
だんだん気の毒な気持ちでいっぱいになってきてしまった。
「傘、あげようかな・・・」
幸い、車の中にはドラッグストアで買ったビニール傘が
いつも積んである。
天気予報なんて案外、ハズレなことも多いから、
いつ雨が降ってもいいように、積んであるのだ。
でも、オレは車で移動することがほとんどなので
意外と、使わない。
「うん、あげよう」
オレは思う。
カッコイイ男を目指すモノならば、ここはあげるべきだろう。
ずぶ濡れになっているコには、傘を差し出すべきだろう。
たとえ見ず知らずのコだろうと、ソレができたなら
オレの目指すところに一歩、オレは近づけるのではないか。
あくまでも、さりげなく。
決して、名乗らず。
決して、何も求めず。
あくまでも、さりげなく。
ソレがオレのダンディズム。
しかし、だ。
オレはふと思う。
「なんて声をかけて傘を差し出せばいいのか」
「はい、あげる」とでも言えばいいのか。
でもなんか、これだとそっけない気がする。
「濡れちゃうよ」?
いや、もうじゅうぶんに濡れているな。
じゃ、「風邪ひいちゃうよ」?
なんか、イヤラシイ気がする。
「女の子は身体を冷やしちゃイケナイから」?
アホか。
いろいろ考えて、
「べらべら喋るのはあんましカッコヨクない」、
オレはそう思い、
やっぱここは「あげる」と言って傘を差し出すことにする。
言葉少なに。
そっけないくらいがちょうどいいのだ、きっと。
オレは後部座席に積んである透明なビニール傘を握ると、
車から降りた。
車の中からでも雨の強さは感じていたけれど、
車の外に出ると雨の一粒一粒が大きいことに気づく。
そして、「夏の終りに降る雨だ」、そう思う。
彼女はすでにオレの車の横を通り過ぎていたから、
自然、オレは彼女を追いかけるカタチになる。
オレは、顔に雨の一粒一粒が当たるのを感じながら、
彼女に向って走っていき、声をかけた。
「あの、すみません」
何が「すみません」なんだか知らないがとにかく「すみません」。
会話のきっかけがナゼか謝罪することから入る、悲しき日本人。
「すみません、コレ・・・」
オレは彼女の背後から傘をちょっとだけ差し出したけれど、
彼女はほてほてと歩き続ける。
だからオレは彼女の横に追いついて、傘を差し出す。
「これ、あげる」
しかし彼女の目は傘など見もせず、
ただ、斜め下を向いたまま。
そして彼女はオレの存在などまるで気付かないように、
ほてほてと歩き続ける。
「傘、オレはいらねぇから、あげる」
すると彼女は無言のまま、
さっきまでほてほてと無気力な感じで歩いてたのが
信じられぬイキオイで、ダッシュで走っていってしまった。
・・・・・・
なんだろう、やっぱオレ、怪しまれたんだろうな・・・
雨の向こうにどんどん離れていく彼女の背中を見ながらオレは、
「ちくしょう、やっぱエロイ言葉でも言っときゃよかった。
彼女の耳元で生・殖・器っ!!とか、
チカラいっぱい言っときゃよかった」
そう思いながら、
受け取り手のいなくなった傘を自分の頭の上に、さした。
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