天気の良い休日。
暇な男たちは公園のベンチに腰を下ろしていた。
「あっちぃな」
「暑い」
「このまだと日射病になるよな」
「熱射病じゃなくて?」
「日射病と熱射病って、何が違うんだ?」
「熱中症ってのもあんだろ」
「何が違うんだ?」
「んん〜、字?」
「オマエ、レベル低いな」
「ホイミ覚えたてって感じだな」
「ホイミ覚えたて」と言われたカズは、
若干落ち込んだようだった。
その横ではマサが、腹を出しながら太陽に向かって
「テメェ、あっちぃぞバカヤロウ」と文句を言っていて、
ソレを聞いてオレは、
「バカなのはオマエだよ」
そう思う。
そんなことをしていると、ふと、
公園内にキレイなオネイサンがいるのが目に入った。
オネイサンの傍らには白い大きな犬がいるから、
オネイサンが、犬と一緒に
散歩をしているのだということが判る。
「あれ、何犬?」
「ジョリィだべ」
「だから、ジョリィって何犬だよ」
「知らねぇよ。
名犬であること以外わかんねぇよ」
「あれ?名犬はラッシーじゃねぇの?」
「ジョリィも名犬なんだよ」
「でも、ラッシーのほうが若干、名犬だよね」
「オメー、ジョリィんとこなめてんじゃねぇぞコラ」
「いや、オレ、ジョリィは観てなかったから」
「嘘っ!!マジで!?
オメー、ソレは人生を損してるぞ」
オレもそう思う。
ジョリィは観ておくべきだ。あと、ニルスも。
と、そんなことを言っていると、
オネイサンが連れていたジョリィが急に、
なんだかソワソワしだした感じがした。
公園にある植え込みのあたりに鼻を近づけて、
クンクンクンクンやっている。
「あ〜、アレはウンコですな」
「そうなの?」
「アレは確実にウンコする場所探してる」
「なんでわかんの?」
「俺、犬に詳しいから」
「スゲーな。ファーブルみてぇだな」
「シートンだよ」と思う。
するとジョリィは背中をまるめ、やっぱりウンコの体制になった。
「ほらな、やっぱし」
「そうですねー、アレはウンコですねー」
「ガンバレ!!」
「ジョリィ、頑張れ!!」
犬のウンコを応援する男たち。
「しかし、アレだね。
犬ってのもやっぱ、ウンコしてるところは
見られたくないもんなのかね」
「なんで?」
「だって、ほら、なんか恥ずかしそうな感じしねぇ?」
確かに、犬がウンコをしてる時の姿というのは、
恥ずかしそうな感じがしてちょっと滑稽に見える。
足をじたばたさせて落ち着かない感じで、
なんか、「すみませ〜ん」みたいな顔をしながらするもんだから、
犬には気の毒だがなんだか滑稽に見えてしまう。
「なんだか、見てるこっちが恥ずかしくなるよ」
「じゃ、見なきゃいいじゃん」
「でも、なんか見ちゃうんだよ、犬がウンコしてっとこって」
うん、確かに見ちゃう、オレも。
「しかもさ、ウンコをしている犬を待っている時の
飼い主の表情ってのが、なんか味わい深いものがあるな」
「そう?」
「うん。
しかもさ、あのオネイサン、なんだかキレイじゃん。
ただ公園に来るだけなのにお洒落してるし。
でも、そのお洒落オネイサンの横では犬がウンコしてんだよ?」
「だから?」
「いや、なんかさ、あのオネイサン、
せっかくお洒落して公園にきてんのに、
しかも、白くて大きくてキレイな犬連れてきてんのにさ、
その白くて大きくてキレイな犬は今、ウンコをしとるワケだよ」
「うん」
「なんかさ、台無しだろ」
「何が?」
「ん〜、わかんねぇかなー」
オレには、わかる。
うまくは言えないがマサの言いたいことはわかる。
オネイサンはせっかくお洒落して公園にきてんのに、
犬のウンコでそのオシャレ感は台無しな感じになる。
その味わい深さ、オレにはわかる。
しかもオネイサン、これから確実にウンコを持ちかえるだろう。
「なんか、ドキドキするよな?」
確実に、する。
するとカズは、
「ん〜、オレにはわからん」と言い、そのあとにこう続けた。
「要は、キミらが変態ということか?」
ソレを聞いてマサは、こう応える。
「違う!!
物事をいろんな角度から見ることができる
歳になったということだ!!」
そしてしばらくするとマサは、こうつけ加えた。
「しかしオレら、なんで犬のウンコで盛り上がってんだろな」
ソレはやっぱ、暇だから、だ。
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