親父の誕生日、生まれて初めてオレと親父の2人だけで酒を飲んだ。
男親がよく「将来、息子と一緒に酒を飲みたい」とか言ってたりするもんだけど、
ソレが本当ならばなんとなく、「申し訳ない」というか、
「お待たせ」といった感じだ。
で、2人で安い居酒屋に入ったのだけれど、
2人でいても案外、話すことが無い。
「身体は大丈夫か?」
「まぁね」
「膝は痛くねぇの?」
「ん?ああ」
家ではよく、母親も含めて政治について激論を闘わせたり、
競馬について熱く語ったりしてるのだけれど、
2人きりだとこれと言って話すことがない。
その空間は居心地の良いものではなくて、
その時オレは、母親の存在をつくづく有難く思う。
でも、そんな気まずい状態で酒がすすんだおかげか、
しばらくすると2人ともだんだんと口が滑らかになってきて、
いろんな話をした。
というか、オレがいろんな質問をしたから、親父についていろんな話を聞けた。
ジャイアンツの原監督がキライな理由。
オリックスの清原が大好きな理由。
大好きなキノコ採りの魅力。
昔、ウチの家族の一員だった犬のジョンを、裏の川に放り投げた理由。
ただのミツバチでも、見ただけで逃げ出す理由。
中でも一番興味深かったのは親父と母親の出会いの話で、
どうして、青森県生まれの親父と静岡県生まれの母親が
その中間あたりにあるこの町で出会って結婚したのか、という話。
なんでも、親父は中学を卒業してすぐ、
親戚を頼って一人でこの町にやってきたらしい。
理由は、家が貧しかったから。
要するに、口減らし。
親父は、建設現場で働きながら夜間の高校に行っていたという。
で、一方の母親は家族で静岡から引っ越してきて、
勉強が好きだったからこの町にある進学校をトップ卒業したのだけれど、
やっぱり、家が貧しいから地元の建築会社に就職したらしい。
そんで、親父と母親はそこで知り合って、やがて結婚した、という話。
家ではそんな話はなかなか聞けないから、
ソレを聞けただけでも、2人で酒を飲んだ甲斐があったか、と思う。
そして、オレが生まれてからの話。
小さい頃、ミニカーが大好きだったオレに、
当時の親父の愛車だった日産ブルーバードのミニカーを買ってやりたくて、
3軒目のデパートでやっと見つけた、という話。
そう言われればそんなミニカー持ってたなぁ、なんて思ったのだけれど、
まさかそのミニカーに、そんな話があったとは知らなくて、
なんだか嬉しいような恥ずかしいような気持ちになる。
しばらくすると、今のオレの話になる。
仕事の話とか、いろいろな話。
今のオレは、とにかく親父に謝りたい気持ちでいっぱいだった。
何から謝ればいいのかわからないのだけれど、
とにかく謝りたい気持ちでいっぱい。
初めて男子が生まれてそれなりの期待をしてくれていたのだろうに、
身体を壊してボロボロになって迷惑をかけて、
悪いことをして迷惑をかけて、
今でもまだ、迷惑をかけ続けている。
そしてこれからも、迷惑をかけ続けるのだ、オレは。
ごめんなさい。
親父がオレの歳のころにはもう、家も建ててオレも生まれていたというのに、
オレはまだ、家族も持てないでいるし、
へたすりゃオレは、オレが親父から受け継いだモノを
未来に繋ぐことすらできないのかもしれない。
本当にごめんなさい。
でも、親父はオレに言うのだ。
「お前はお前で好き勝手にやれ」
そして、続けるのだ。
「俺のことも母ちゃんのことも気にすることねぇから好きにやれ。
あと二十年か三十年かしたら、俺も好き勝手に死ぬからよ」
なんか、今年で64歳になったこの人は、とてつもなくデカイと思った。
世の中にどれだけの偉人がいるのか知らないが、
オレにとっては身近なこの人が一番。
オレには決して越えることができないデカさだ。
やがて、ベロベロになった親父は、「代行呼べ」と言い出す。
「お母ちゃんに怒られっから早く帰っぞ」
オレにとっての偉人は、豪快なようでいて意外とカワイイところもあった。
コメント
やはり男たる者、斯く在りたいものですな
とても家出をして納屋に隠れてた親父とは思えないところが凄い!。
ゲルタさんのお父様はまだお若いのですね!
うちの父も63になります…
ああ、父に見習ってほしい…
つか、居酒屋まで車で行ったんですかぁ!?
そしてそのお父様を尊敬されてるゲルタさんもステキです。
こういう親子関係、羨ましいです。
ありがとうございます。
男たるもの、そうありたいですよね。
難しいと思いますけど、でも。
●きまぱぱ様。
あはははは!!
ありがとうございます!!
や、確かに!!
確かに、納屋に隠れてた人とは思えないです!!
ソレを踏まえると、なんだか撤回したい気持ちになります(笑
●リンドウ様。
ありがとうございます!!
おお、リンドウ様のお父様も63歳ですか!!
お若いんですねー!!
居酒屋、車で行きましたー。
なんせ田舎なので、車で行って代行で帰るんですよー。
●みさと様。
ありがとうございます。
なんか恥ずかしいのですが、やっぱし親父、尊敬してます。
や、こんなこと親父には言えないですけど!!
調子に乗りやすい人なので(笑