「頼みがあるんだけど」
ちょっと前に知り合いになったT男がそう言うので話を聞いてみると、
なんでも、どこだかのエラいヤツがウチの地元にやってきて講演会をするらしく、
その講演会の聴講者を、T男は集めなきゃならないらしい。
「人集めをしなきゃならないほど人気が無ぇんなら、
講演会なんかヤメちまえってそのエラいヤツに言った方がいいんじゃねぇの?」
オレはT男にそう言ったのだけれど、
T男はオレに、「頼む!!お願い!!」とばかり繰り返す。
「出席するだけでいいから!!」
別にまぁ、その日はなんの予定も無かったので、
「そんなに言うんなら」とオレはその講演会ってのに出席したワケだが、
会場の教室くらいの大きさのスペースに行ってみると、
『自立支援セミナー』と銘打たれたその会は、
なんてことない、ただの、ネズミ講であった。
「オメェ、ブッ飛ばすよ?」
2度目である。
こういうのにうっかり参加してしまうのは、オレの人生でうっかり2度目である。
1度目はアレだ。
昔、オレが若い頃に入院してた時にお気に入りの看護婦さんが出来て、
「退院したら遊ぼう」と約束して、
で、退院後に、いざデートとなったワケなのだけれど、
そしたら当日、その看護婦さんが「行きたいところがある」とか言いだして、
そこに行ってみると、浄水器と空気清浄器をうっかり買わされそうになった。
「お金持ってないから!!買えないから!!」
「あ、心配ないよ、分割でも大丈夫だから」
オレの言いたいことはそういう事じゃない!!
その時は結局、「トイレに行ってくる」とかなんとか言って、
看護婦さんをほっぽって会場から逃げ出し、
ソレからはもうその看護婦さんと連絡を取るのはヤメたワケなのだが、
アレは、20歳のころだっただろうか。
ソレ以来、15年ぶり2回目である。
「15年ぶり2回目」とか言うと、甲子園なら大喜びなのだろうけど、
オレの場合はなんせ、ネズミ講の講習会だ。
大喜びどころかかなりゲンナリである。
オレは、自分のうっかりぶりにかなり腹が立ったワケだが。
で、今回。
「ブッ飛ばすよ?」
オレはT男にそう言ったワケなのだけれど、
「2時間の間、座ってるくれてるだけでいいから!!」とT男に説得されて、
とりあえず、2時間だけ話を聞いてやることにした。
で、そのネズミ講のエラい人の話を聞いてたワケだが。
これがまぁ、ほんっとにキモチワルイ。
何がキモチワルイって話を聞いてるヤツら、ソイツらがキモチワルイ。
オレが思うに、アレは洗脳だ。
間違いなく洗脳だ。
だって、オレ以外の話を聞いてるヤツら、
ソイツらはいちいち、そのエラいヤツの話に過剰なほどに反応するのだ。
例えば、そのエラいヤツがちょっとした冗談を言う。
これがまた、どーしよーもないほどにくだらない冗談、
言うなれば「蒲団がフッ飛んだ」レベルの冗談なのだけれど、
ソレを聞いてるヤツらは手を叩いて、腹をかかえて笑うのだ。
「おい、今の面白かったか?どこが面白かった?」
「面白さを教えて欲しい」と思われる笑いは最悪だ。
オレはその会場に渦巻いた笑いの意味を教えてほしくて隣を見たのだけれど、
隣の席でT男はやっぱり、他のヤツと同じで腹を抱えて笑っていた。
オレは、絶望的な気持ちになる。
一転、そのエラいヤツの話は今度は、泣ける話になる。
なんかこう、こういう話にありがちな、
「ワタシは以前、毎日の食事にも困るほどに貧しい人間でした」的な苦労話。
すると会場じゅうからすすり泣く声が聞こえる。
で、そんな中で話は続き、
イジメにあって学校にもロクに行けず。
家では親に暴力を奮われ。
成人して家を飛び出し就職するも、会社は倒産してしまい。
そして、毎日の三度の食事にも事欠く程に困窮して、
ついには自殺まで考えだした頃。
「この○×ネットワークに出会ったのです!!」
「おおお~」とどよめく会場。
そしてそのエラいヤツは一枚の写真を出して、
「そして今では、子供の頃の夢だったフェラーリに乗っています!!」
パチパチパチパチ!!
会場じゅうから拍手喝采!!
「ああああ~、アホくさ」
そう思うオレの横で、T男は立ち上がって拍手をしていた。
そしてその後、話はその会社の商品の話になる。
例えば、ジャニーズ所属の超有名人気アイドルが
朝の情報番組にトークゲストとして出演した時、
おやつとしてウチの商品を紹介していました、なんて写真を出す。
でも、写真を見るとその商品のところにはモザイクが入っていて、
商品がわからないようになっている。
そのエラいヤツの説明では、
「ウチの商品はTVコマーシャルをしてないので、
あそこで商品を出してしまうとスポンサーとモメてしまうから」、
モザイクが入ったのだそうだ。
そんな説明を聞いてはみんな、
「なるほど~」などと口々に関心の言葉を言う。
「でも、あの番組って生放送だろ!?」
会場の中でその点に気づいたのが、もし、オレだけなのだとしたら、
これは確実に、洗脳の効果だと思う。
そしてその後、まぁ、例のごとくのネットワークの話になる。
お友達を紹介して、そのお友達を紹介して、そのまたお友達を、といった例の話。
ホワイトボードにはそのネットワークで構築された
これまた例の三角形が出来ていて、
こんなの、昔からまったく変わりばえのないシステムなのに、
会場にいるヤツらは熱心にその三角形をメモしている。
「ネットワークがどんどん広まれば、
あなた方は何もしなくても毎月お金が振り込まれるんです!!
どうです?ビックリでしょう!!」
エラいヤツはそんなことを熱弁していて、
聞いてるヤツらはそんな話に目を輝かせている。
なんだろう。
ここにいる人たちはこういうシステムの儲け話を聞くのは初めてなのだろうか。
オレは、そっちの方にビックリである。
予定通り2時間も経つと、話は終わった。
「んじゃ、オレ帰るぞ。頼みはちゃんと聞いてやったからな」
しかし、オレが帰ろうと席を立って振り返ると、
そこに、オレの帰る道は無くなっていた。
要するに、その主催者側の人間たちに、囲まれた。
「もっと話をしましょうよ」
「今までの説明で、何かわからないことありませんか?」
話もしたくないし、わからないことなんて全然無い。
あるとすれば、ここに来て笑ったり泣いたりしてるヤツの気持ちがわからない。
しかしまぁ、ソレは、本人の意思である。
ネズミ講をやろうがどうしようが、オレの知ったことではない。
オレが、「ベツにわからないことなんて無いです」、
そう言ってオレを囲むヤツをすり抜けようと、また、目の前が遮断される。
「まぁ、とりあえず座ってくださいよ。
長い話だから疲れたでしょう。お茶でも飲んでってください」
そうすると知らん女がお茶を運んできて、
それとほぼ同時くらいに、なんかの契約書みたいのが机の上に置かれた。
「さっきお話しましたけど、
今入会してこのセットを買えば、非常にお得なんです」
そういや、そんな話があった気がした。
確か、シャンプーだの歯磨き粉だのの詰め合わせで、14万円。
通常価格で85万円だから、71万円引きである。
71万円引き。
なんだソレ。どんな商売だ。
オレが、「そんな金ないからいいです」、そう言って拒否すると、
オレを囲んだヤツらは一斉に呆れたという顔をする。
「後々まで使えるモノなんだから、お得だと思いません?」
まぁ、そりゃあそうかもしれないけれど、
オレが言いたいのはそういうことじゃなくて、
「入会する意思はない」ということ。
だからオレは、ソイツらに向かってハッキリと言った。
「入会する気なんて全然無いんで」
立ち上がろうとすると、また囲まれる。
ドアの方を見ると、男が入口に立つのが見える。
完璧に「逃がさない」といった態勢。
そんで、囲んだヤツらはオレに向かって口々にお得な14万円のセットを薦める。
すると、そんな中、さっきのエラいヤツがオレに向かって言ってきた。
「こんなにお得な情報だから、
T男君は友達であるあなたにお話しをしたんでしょう?
一番の友達だと思うあなたを連れてきたんですよ」
T男を見ると、T男はその言葉にうなずいていた。
そして、言う。
「お得だと思うでしょ?
これで入会してネットワークが広がれば、俺も君もお金が儲かるんだよ?
友達だから教えてるんじゃん」
しかし、オレは思う。
「あれ?こいつって、オレの友達なのか?」
確かに今、オレはここにいる。
でもソレは頼まれたからであって、内容を聞かされずについて来ただけだ。
いや、来てしまったオレも確かに悪いんだけど、
でも、内容をちゃんと聞いていれば来なかっただろうし、
ソレに、今回は騙されて連れてこられたも同然じゃないか。
しかもなんだ。
その上に14万も出して歯磨き粉買えってか。
ソレを友達と言えるのか?
オレが友達と呼ぶヤツは、そんなこと言わない。
14万で歯磨き粉買えとか言わない。
毎日毎日バカみたいに生きてて失敗ばっかしてるヤツらだけど、
でも、友達を自分のネットワークの一部に組み込んで
金儲けをしようとすることを考えられるようなヤツらじゃない。
だから友達でいるのだし、死ぬまで友達でいたいと思うんだ。
ソレなのに、友達ヅラで「14万円」ってか。
友達だから「71万円引きでお得です」ってか。
なんだソレ、コノヤロウ。
だんだん腹が立ってきた。
しかし、その横でT男は他の連中と一緒に「入会しろ」だの
「買え」だの言っている。
なのでオレはT男に訊いてみた。
「オレらって友達なの?」
するとT男は、「当たり前でしょ?」と、
そんなこと訊かれてビックリ、といった顔をした。
だからオレは、
「感違いすんなオマエ」
そう言って、机を思いっきり蹴飛ばした。
はっきり言ってオレは、
他人がネズミ講をやろうがどうしようが知ったことではない。
世の中でどんなに問題になろうが、そんな事は知ったことではない。
やりたいヤツはやればいい。
ソレで金が儲かろうが痛い目に会おうが、
そんな事はオレの知ったことではない。
ただ、オレを巻き込むな。
ネットワークだかなんだか知らんがオレを利用しようとするな。
そして、そんなヤツがオレの友達ヅラをするな。
蹴った机は自分でもビックリするくらい大きな音が出て、
教室くらいの大きさの会場は、いっぺんに静かになる。
あとは、オレが会場を出ていくのを止める者は居らず、
オレはゆっくりと部屋を出た。
1時から始まったその会だったのだが時計を見るとすでに4時を回っていた。
オレはその時はじめて、
「あ、オレは1時間以上も囲まれていたんだな」ということに気づいた。
コメント
(私の)想像の中でしかない世界は
想像の通りの世界だったのですね。
お疲れ様でした。
”今度あそびにいこうか?”って言われ
うっかり新興宗教に入れられそうになった
過去を思いだしましたよ(大笑い)
その周期だと、一発屋の歌手が2回目の紅白出場した
みたいな感じです。
昔の友人の中でそっちのビジネスの世界に行ってしまった
人が居ます。今はもう誰も連絡取れないみたいで・・・・。
消息不明です。
友達なくしますよね、アレは。お金の損失も
アホらしいけどお金で買えない財産?も
なくしそうな感じです。
逆に、その手のビジネスで儲けてるらしい
人も知ってますよ。
儲けてる人の方は以前と何も
変わって無くて(ライフスタイルとか人間関係とか前のままで)
逆にコワいです。
何も変わらないまま儲け続けるのって凄いことですよね?
どうしてそんなことできるんやろう。どういう手を使ってる
んやろうと思ったら背筋が寒いです!
本当に流石に最近は、遣ってないんですが(いい加減、体力的にも「おやぢ」)ですから...
その手の会合に出席する際には(えぇ、するんですよ。目的は違いますが)とりあえず、盗み録り様のマイクロレコーダーと隠し撮り用のデジカメを忍ばせて(証拠能力は無いんですけどネ)その時の気分によって桜の代紋か聞やさんの知り合いに近くに待機してもらって、拝聴してました。
たまぁ~に議論を吹っかけてくる奴がいたら、丁重にねじふせ。
武闘派が出て来るのを待って、待機中の知り合いを呼び出す。
まぁ、そんな事を数回繰り返しているうちに「ネットワーク」のブラックリスト(溝鼠にも横のつながりはあるみたいで)にでも載せられてるんでしょうかねぇ。
最近は、ちっとも「お声」がかからなくなって(^_^;)
私は下手な嘘が大嫌いなんです♪
ゲルタさん、かっちょいー!
「ネズミ溝になんか参加しねーよ」ってキッパリ言ったら刺されそうですよね。
私は、統一教会の信者に囲まれて勧誘されたことありますが、支部に行かない行こうの押し問答になったので「用事がある」で、逃げ帰ったことがあります。
囲まれた経験は、ソレくらい。
元同級生と偽って親に私を電話口に出させて、違うと判っていたものの、イケメン風の声にまんまと呼び出されて、待ち合わせ場所にいた女子にホテルの1室に連れ込まれて、商品説明されたってのもあります。<いや、若かったな。
「会員になって、ウチから商品を買えば安く手に入るので、若くして家が建てられます」と、当時、建築設計事務所勤務だった社会人ビギナーな私に言いやがりましたので、「家って、土地つきでいくらで建てられると思う?」で切り返し、500万くらい?って言ってたので、ドコの田舎に住む気だ…自分でカンナかけたりノコで切ったりすんのかよって、ちとあきれたので、そんなんじゃ札幌はおろか旭川にだって家は建たない。中古住宅買うのが精いっぱいだと言って、逃げてきました。
思えばデートに誘って、「行きたいところがある」で喫茶店とかに連れて行って、ダイヤとか百科事典とか買わせてクレジット契約するまで席の周りをセールスが囲んで、逃げられないようにするえげつない商売が横行してた時代だったです。
若気の至りってありますよね。<騙されずに逃げてこれたから言えるw
まずは「友達がヅラ」と読んだことをお詫びしますorz
私も散々その手の勧誘に遭って来たクチです。
バイト先の人から某宗教の勧誘にあったり、街歩けばキャッチにつかまったり…
氏ね!って感じで居たら、だいぶ受け流しスキルがあがりましたよ(笑
この前も新宿歩いてたら、ipod聞いてるのにも関わらず顔覗き込まれて「手相見せてください」って
言われたもんですから、利き手を逆に、トシごまかして、結婚運を聞いてやりました(爆
(結婚はずいぶん先ですねとか言われました、そりゃそーだ、逆手ですもん。)
でも…
机蹴った足、痛くありませんでした?お大事に~~~
お疲れ様でございます!!
そそ、あの世界でした!!
自分もあの、TVとかでやってた世界に実際に入ってみて、
恐いと思った反面、ちょっと嬉しくもありました。
「ホントにあったんだ・・・」
そんな感じでしたよー。
●魚様。
おおお、危機一髪じゃないですか、その過去は!!
しかし、アレですよね。
女の子に誘われると、ついつい行ってしまったりするんですよね、
僕たち男の子!!
●レッドアイやん様。
あはははは!!
一発屋の歌手が2度目の紅白出場!!
「あれ?大事MANブラザーズバンドってまだやってたの?」みたいな。
そそ、友達なくしますよね、アレ。
「友達だから誘った」とか言うけれど、
ホントの友達ならば、なかなか誘えないってもんです。
あ、オレもその手のビジネスで成功した人知ってますわー。
なんか、プラチナメンバーだとかに昇格したとかで、
ものすげぇ稼いでるんですけど、でも、なんか、コワイです。
稼いでいても、感じるのはなぜか尊敬よりも恐ろしさなんです。
●kaj様。
おおおおお!!
スゴイ!!
kaj様、潜入捜査みたいじゃないですか!!
カッケーッ!!
オレも今回、レコーダーを持っていけばと後悔しましたよー。
そしてソレを報道ステーションあたりに流せばよかったと!!
なんせ今、国会でも問題になってもすもんねー。
惜しいことをしましたわー。
●寝待月様。
おおおお・・・
寝待月様、いっぱいご経験がおありじゃないですか!!(笑
オレも電話で、ダイヤの指輪買いませんか?って誘われたことあります。
「彼女に買ってあげてください」とかって。
「彼女いねぇよ」って言ったら、
「じゃ、将来彼女になる人の為に」とか言うもんで、
ふざけんなバカって切ってやりました。
しかし、500万で家が建てられるってのは勉強が足りないですよね。
足りなすぎですよねぇ(笑
●リンドウ様。
ギャハハハハハハハハ!!
友達がヅラ!!
や、その前にオレがヅラになりそうです!!(←抜け毛が気になる年頃)
あああ、宗教もありますよねー。
ウチに来たのはなんか、家まで来て小冊子を配ってたりすんですわー。
で、中身を玄関先で朗読するんです。
やめてー、恥ずかしいからやめてーって思うんですけど、
なんか、相手が宗教だとなかなか言えなかった思い出があります。
しかし、逆の手って(笑
手相見てなにがしたかったんでしょうね~、その人は(笑
たま~に東京に行くと、絶対声をかけられるんですよ、オレ。
なんだろう・・・
引っ掛かりやすそうな顔してんのかなぁ。