「ゲルさんてSM愛好者なんすか?」
今年の春に入社した19歳の若者にそう訊ねられた時、
驚きと同時に、「もしやアレが原因か?」とピンときた。
いや、きっとそうなのだ。
オレが何気なく発した「あー、変態だからですかね」という言葉が
この噂の原因なのだ、きっと。
事の発端は先週、会社のチームでの飲み会があった時の話だ。
飲み会の会場にたまたま、同じ会社の違う部署の人たちがいて、
なんだか入り混じって飲み会みたいなカタチになったのだけれど、
その最中、その違う部署の女子と初めて話をしたのだ。
彼氏がどうとか、彼女がどうとか。
その時、「彼女なんていませんよ」と言うオレに対して女子は
「どうして彼女いないんですか?」と訊き、
ソレに対してオレはこう答えたのだ。
「あー、変態だからですかね」
もちろん、冗談だ。
あ、いや、自分では変態ではないつもりでいても、
他人から見ればじゅうぶんに変態の場合もあるから、
一概に「自分は変態ではない」とは言えないのかもしれないのだけれど、
それでも、自分ではその自覚がないつもりだから、
この「変態発言」はあくまで、
あくまでも、冗談のつもりで言ったのだ。
そのオレの「変態発言」を受けて女子は、
「えー!!」とか言いながら笑っていて、
ソレを見たオレは、続けざまに
「あ、でも、軽い変態ですよ?
ライト変態です。ライト級の変態です」
そんなことを言って、
それはソレで、その場は盛り上がったのだ。
その場は盛り上がったのだが。
想像するに、きっと、その女子が、
オレが「変態です」と言った、という話を会社の中でしたのだと思う。
きっとソレは、
「ゲルタがヘンな冗談を言っていたよ」といった程度の話だったと思うのだが、
なんせ、社屋の中に何百人という人間がいる会社である。
思い当たるのは、例えば、その女子が仲のいい会社の同僚にその話をして、
ソレを聞いた人間が、誰かにその話を冗談として伝え・・・
いや、たまたま隣で聞いていたヤツかもしれない。
たまたま隣に居合わせた誰かが「ゲルタが自分は変態だと言った」という話を
誰かに「そういや、センターのゲルタって変態らしいよ」と伝え、
ソレを聞いた誰かがまた「あの人って変態なんだって」と伝え、
そしてソレを聞いた誰かがまた誰かに・・・
いや、もっと短いのかもしれない。
ソレとも、もっと長いのかもしれない。
どちらにしろ、おそらく、その話はいく人かを中継したのだと思う。
そしてその噂話は、さながら伝言ゲームのように変化していき、
あの飲み会の夜に始まったオレの「変態発言」は、
今日、思わぬ形でオレの耳に帰ってきたのだ。
19歳の若者の「ゲルさんてSM愛好者なんすか?」として。
ちなみにその若者に、その話を誰から聞いたのかと問うと、
同じチームの「A」という女子からだと答えた。
だから今度はその「A」に、その話は誰から聞いたのかと問うと、
違う部署だが一緒にご飯を食べている、仲のいい「B」という女子からだと言う。
間違いない。
オレの「変態発言」は、噂が伝わっていくウチに
どこでどうなったのか「変態」から「SM愛好者」に変化しているのだ。
さながら伝言ゲームのように。
しかし、だからと言って特に、
この話を途中から捻じ曲げてしまった犯人を探すワケでもなく。
いや、「誰」から「誰」に「どう」伝わって、
どこで、「変化が生じたのか」という点が非常に興味深いのだけれど。
でも、なんか、面倒そうなのでとりあえず犯人探しをするワケでもなく。
ただオレは、目の前の若者に、
「オレはベツに、SMの愛好者ではないぞ?」
そう伝える。
すると若者は「っすよねー、ありえないっすもん」と言い、
「いや、ボクが聞いた話だとですね」と続け、こう言った。
「ゲルさん、服の下はいつも縛ってある、って」
えっ?
噂ではオレ、そっち側なの!?
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